天守は木造復元すれば本物?
名古屋の前市長である河村たかし氏は、名古屋城天守の木造復元計画を進めてきた。その前提には、河村前市長の「木造で復元すれば本物」という考えがあるという。はたして、その考えは妥当なのか。『名古屋城・天守木造復元の落とし穴』(毛利和雄・著、新泉社)からメモする。
河村市長は、復元した木造建物が本物になるのは、三条件(元あった場所に、元の材料の木を使って、資料どおりに)をみたして復元した場合だとして、「奈良文書」と文化庁の「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」をあげる。
「奈良文書」とは、ユネスコの世界遺産の基準となっている1964年の「ヴェニス憲章」を補完するもので、1994年に奈良市で開かれた国際会議で採択された。
日本の木造建築は解体修理が行われ、傷んだ木材を継ぎはぎしたり、取り替えたりするが、そうした伝統的なやり方の修理でも本物であることは維持されるとする。日本では、解体修理で、もし創建当初の姿がわかれば、それに復することを「復原」と呼び、燃えたりしてまったくなくなったものを再現した場合には、「復元」と呼び分けてきた。
「奈良文書」は、本物が存続している文化遺産のオーセンティシティ(真正性)の属性として、形態や意匠、材料と材質、用途と機能、伝統と技術などをあげているので、すでに本物がなくなってしまっている場合に、それらの属性を踏襲して復元しても、それはあくまでも複製品(レプリカ)であって本物ではない。
名古屋城の場合、(史資料面から)質の高い復元ができる条件はそろっている。名古屋市は、「天守の木造復元は、オーセンティシティを担保するものと積極的に評価することが可能と考える」とする。ただし、その場合でも、復元された名古屋城の木造天守は、特別史跡名古屋城跡の本質的価値を構成する要素ではなく、「本質的価値の理解を促進」させる要素だ。
・・・名古屋城の石垣は江戸時代に作られた本物であり、名古屋城跡の本質的価値を構成する。一方、天守は復元である限り、コンクリートだろうが、木造だろうが、レプリカであり本物ではない。つまり名古屋城跡の本質的価値を構成する要素ではない。現状、木造復元計画は石垣保全との兼ね合いのほか、バリアフリーでもモメているが、これも人権に鈍感というより、前市長の認識としては、「本物」の天守にエレベーターは要らない、程度の印象。とすれば、たとえ木造でも所詮復元天守なのだから、エレベーターくらい付けろよ、という話だろう。
本日、投開票が行われた名古屋市長選挙では、前市長の後継者との触れ込みで立候補した広沢一郎氏が当選した。前市長の政策をすべて継承するということだが、名古屋城天守の木造復元については、まずは石垣の保全という順序、さらにバリアフリーの実現という課題について、前市長の短兵急かつ頑なな姿勢を修正して、計画を着実に前に進めてもらいたいものだと思う。
| 固定リンク | 0