ワイマール状況の克服
本日付日経新聞総合面コラム記事(民主主義の「矛盾」克服を)から、以下にメモする。
第1次世界大戦後にドイツで成立したワイマール共和国は、先進的な民主憲法で知られる一方、議会制民主主義は悲惨な状況にあった。国会には少数政党が乱立し、連立政権を組んでも過半数を下回った。経済危機のさなかですら「決められない政治」が続いていた。これに不満を抱いた保守派や資本家の主導で、非常時の大統領緊急命令権により首相に就いたのが、国民人気が高かったナチス党のヒトラーだ。当初はかいらいとみられたが、あっという間に首相が強大な立法権を持つ「全権委任法」を成立させ独裁への道を開いた。
自民党総裁選で4日、高市早苗氏が選出された。参院選以来の政治空白には終止符が打たれたが、どの政党も単独で政権を担えない多党化の時代に突入した。背景にはSNSの普及や社会の多様化があり、合意形成は困難さを増す方向だ。ワイマールのような混乱と停滞をどう回避し、強権への誘惑を断ち切るか。
民主主義は先天的に矛盾を抱えている。制度の基本を選挙としながら、選挙は民意をすくい取るシステムとして不完全であるためだ。ポピュリズムが叫ばれる今だからこそ必要なことーー。それは「民意」を捉えなおし「民意」に基づいた政策議論に立ち返ることだ。データを軸にした民主主義の深化も欠かせない。
「決められない政治」をただ嘆くのではなく、その先の扉を開く。日本は今、民主主義の未来を勝ち取る闘いの最前線にいる。
・・・ワイマール共和国は、革命と敗戦という混乱の中から生まれた。それゆえ社会秩序の危機的状況に陥った場合に備えるため、憲法の中に緊急事態条項(大統領緊急令)を置いた。また大戦後のハイパーインフレーションという経済危機の際には、共和国政府は「全権委任法」を時限立法として限定的に用いた。しかし世界大恐慌が起きて社会的混乱が増大する中で、大統領緊急令が頻発される。内閣が次々に出来ては壊れるという政局が続き、最後に少数与党のヒトラー内閣が誕生する。そして政権発足直後、国会議事堂が炎上したのを口実に、ヒトラーは共産党員を逮捕。さらに政府が自由に用いる法律としての全権委任法を、ナチスの私兵である突撃隊や親衛隊も動員して強引に成立させた。「世界一民主的な憲法から独裁者が生まれた」と面白おかしく表現されることもあるが、実際には、政局により生まれた政権が暴力的手段も使って、独裁を完成させたということになる。
ワイマール状況の基本的構図は、今の政治状況を考えるときにも参照できる。当時のドイツではナチス党と共産党の勢力が伸長、今でいうと極右と極左に当たるだろう。多党化に加えて右派と左派の分断により、今の政治も迷走する恐れがある。政治的な合意形成の難易度は上がっているが、諦めずに辛抱強く、多数が納得する妥協の技術を磨いていくべきだろう。
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