戦争記録画を記憶し継承する
先日のNHKEテレ「日曜美術館」(「戦後80年 戦争画と向きあう」9/21放送、9/28再放送)では、現在東京国立近代美術館で開催中の「記録をひらく 記憶をつむぐ」展を取り上げていた。この展覧会は、同美術館の所蔵作品を中心に構成されており、「戦争記録画」いわゆる「戦争画」の大作も展示。番組では宮本三郎、藤田嗣治の作品を中心に紹介していた。
この展覧会の開催告知は同美術館HPのみでやってるみたいだし、足を運んでみたら展覧会カタログが見当たらないのも異例という印象。ネット記事を見ると、主に予算上の制約によるという話なのだが、そんな中でNHK番組が広告の代わりになっている感じ。とりあえず、この展覧会開催の趣旨について、会場説明板の文章(「ごあいさつ」と「おわりに」)の一部を、以下に引用しておきたい。
(この展覧会は)絵画や写真や映画といった視覚的な表現が果たした「記録」という役割と、それらを事後に振り返りながら再構成されていく「記憶」の働きに注目しながら、過去を現在と未来につなげていく継承の方法を、美術館という記憶装置において考察するものです。
東京国立近代美術館は、戦時下の1930年代から1940年代の美術については、購入や寄贈によって収集した作品のほか、いわゆる「戦争記録画」を153点収蔵しています。これらは戦意昂揚と戦争の記録を目的に制作され、戦後アメリカに接収された後、1970年に「無期限貸与」という形で「返還」されたものです。本展では戦時中の作品に、戦争体験を想起させる戦後美術を加えて、美術が戦争をどのように伝えてきたかを検証します。
戦中にプロパガンダとして機能した戦争記録画の展示においては、戦時体制下で美術が担った社会的な役割を歴史的事実に基づいて見つめ直していきます。このような当時の経験を時代や地域を超えて共有し、未来の平和に資する想像力を引き出すことを試みます。
戦後80年となる今年、戦争体験を持たない世代が、どのように過去に向き合うことができるかが問われています。それは他でもない、現在を生きる私たちの実践にかかっているといえるでしょう。これまで蓄積されてきた過去の記録に触れながら、それらをもとに新たな記憶を紡ぎだしていくこと。私たちは、美術館がこのような記憶を編む協働の場になることができると考えています。
本展覧会では、当館が保管する戦争記録画を、どのように次世代に継承すべきかがひとつのテーマとなりました。最大の課題は、すでに終戦から80年が経過し、戦争体験者がますます少なくなる中で、戦時下の文化が置かれていた社会的・政治的な文脈が共有されにくくなっていることです。本展が明らかにしたように、美術を含む視覚的な表現は、決して他のメディアから自立していたわけではなく、同時代に流通していた言説に密接にかかわるものでした。
本展は、「戦争を知らない」世代が、実体験者と異なる視点で過去に向き合うことを積極的に考える機会でもありました。美術や文学などの芸術が虚構を交えて構成する戦争表象を、ジャンル間の比較や大衆文化との関係も含めて俯瞰できる視座を持つこと、さらに、時代や地域を超えた戦争経験との比較考察ができる視点を持つことは、戦争の記憶の継承にとって大きな可能性となるのではないでしょうか。
・・・「記録」を手掛かりに「記憶」を継承する。古い記憶を呼び起こし、新たな記憶としての認識を形成する。そのために、現在生きている我々に求められることは何か。
自分の年代(現在60歳代)だと、かつて子供の頃にマンガや映画、プラモデルで戦争を学んだ覚えがある。思えば当時は戦後25年程度であり、自ずと戦争を学ぶ環境の中に生きていたように思う。戦後80年の現在は、もはやそういう環境ではないだろうし、戦争経験者がいなくなる日が目前に迫る中で、なおさら「戦争を知らない」世代は、戦争について「積極的に考える」ことを、意識的・能動的に「実践」していくことが求められている。
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