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2024年10月10日 (木)

カミュのチカラ

コロナ禍の頃、小説『ペスト』が改めて注目された作家カミュ。今でもその人気は根強いものがあるらしい。岩波新書『アルベール・カミュ』(三野博司・著)の、「おわりに」からメモする。

カミュはつねに、それぞれの時代が抱える課題のなかで読み継がれてきた。フランスにおいても諸外国においても、『異邦人』はもちろん、『ペスト』も『転落』も多くの読者を獲得し続けた。翻訳された言語は、『異邦人』75、『ペスト』59、『転落』45で、『異邦人』は250という圧倒的数字の『星の王子さま』に次ぐ2位。

カミュは生前から、そして死後も一貫して、一般読者から見放されることが一度もなかった作家である。死後50年の2010年、生誕100年の2013年、そして死後60年の2020年、フランスの雑誌、テレビ、ラジオはこぞってカミュを取り上げた。

今日、フランスにおいては、あらゆる場所でカミュが引き合いに出される。2020年10月、イスラム過激派によって殺された教師サミュエル・パティの国葬がパリでおこなわれたとき、教え子が亡き恩師に捧げる謝辞として、カミュがノーベル賞受賞時にジェルマン先生に宛てた手紙を読み上げたことは記憶に新しい。他方で、政治的戦略からカミュの威光を利用しようとする動きもあとをたたない。17年、フランスの大統領選挙では、勝利したマクロンを含めて、左派から右派まで候補者のだれもがカミュの言葉を引用して、その権威に頼ろうとした。

・・・最近も『転落』の新訳が文庫本で出ていて、自分はちょっと驚いた。(そんなに話題になってはいなかったようだけど)

カミュの父は戦死して、家は貧しかった。ルイ・ジェルマンは、そんなカミュに目をかけて、上級学校への進学をサポートした恩師。カミュがジェルマン先生に宛てた手紙の言葉。「先生がいらっしゃらなかったら、そしてあの貧しい小さな子供だった私に愛情のこもった手を差し伸べ、教えと手本を示してくださらなかったなら、このようなことは決して起こらなかったでしょう。先生の努力、先生の仕事、そして先生がそこに込めた寛容な心は今も先生の小さな生徒の一人だった人間の中に生きています。時を経た今も、私は先生に感謝を捧げる生徒です。」

恩師がいる人って羨ましい・・・というのはともかく、カミュの作品が愛読書であるとも言えない自分なのだが、なぜだかカミュは気になる人なのだな。

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