映画「オッペンハイマー」
昨年夏にアメリカで公開された映画「オッペンハイマー」。今年春にアカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など7部門受賞。そして3月末にようやく日本でも公開の運びとなった。何しろ上映時間3時間。自分も年なので、2時間を超える映画を観るのはしんどくなってるし、洋画なので字幕だし、吹き替え版もないしで、それなりに覚悟して映画館に出向いたのだが、演出テンポが良いということなのか、それ程長いという感じはなく観終わった。
物語は、天才科学者オッペンハイマーがリーダーとなって進める原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」を中心に、戦後の「赤狩り」に巻き込まれたオッペンハイマーの聴聞会(クローズドヒアリング)そして公聴会(オープンヒアリング)の三つの流れが、時系列を前後させながら展開されていく。
公聴会場面の中心人物はストローズという政治家で、オッペンハイマーを窮地に陥れた人らしいのだが、果たしてこの人物の話は必要だったのか。この場面はモノクロ映像になるのだが、どういう効果を狙ったのかよく分からなかった。
聴聞会の場面でも、小さな部屋でヒアリングを受けているオッペンハイマーが突然素っ裸になって、なぜかその場にいないはずの昔の恋人とヤリ始めるというヘンなシーンがある。厳しい追及から逃避する気持ちでも表わしているのか何なのか、でもこれ必要かなあと思った。この場面の撮影って、役者さんたちはみんなどんな気持ちで演じていたのだろう、などと余計なことを考えてしまった。
オッペンハイマーとトルーマン大統領の対面場面。「私の手は血塗られている」と言うオッペンハイマーに対し、トルーマンは「日本人が恨むのは爆弾を作った者ではなく、落とした者だ」と言い放つ。よっ、大統領、さすがよく分かってらっしゃる。確かにトルーマンは、日本人にとって最悪の大統領だ。でも、もしルーズベルトが生きていたとしても、やはり原爆を落としたのではないか(小林よしのり『戦争論3』を読むと、そう思う)。
アメリカの原爆開発は、ナチスドイツへの使用を想定していた。しかしドイツは降伏。その後原爆実験は成功。新兵器の威力をソ連に見せつけたいアメリカ。結局、敗北を認めようとしない日本に、原爆は使われることになった。実験が成功してなかったら、日本がさっさと降伏していたら、とは思うのだが、全てのタイミングの連なりは、日本にとって最悪の結末に行き着いた。
ヒロシマ、ナガサキの惨状は描かれないのだが、この映画はオッペンハイマーの原爆開発の物語であり、クライマックスは原爆実験成功であるから、その後の原爆投下は物語の本筋からは外れるということなのだろう。その原爆実験成功の場面は、「我は死、世界の破壊者」のモノローグと共に、まさに黙示録的な様相で迫ってくる。実験成功を喜ぶ科学者たち。お金と時間を使ってきた一大プロジェクトの成功を祝うのは、当然のことだろう。そして戦後、オッペンハイマーは共産主義者との関係を問われ、スパイ疑惑もかけられる。オッペンハイマーの人生、その栄光だけでなく転落も描き出して、映画は終わる。
公聴会のシーンが無ければ、内容ももう少しまとまりが良くなり、上映時間も短くなって(苦笑)、文句の付けられない作品になったと思う。
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