中国人民解放軍は台湾を「解放」する
本日付日経新聞「中外時評」(中国は米国の衰退を待たず)から、以下にメモする。
名は体を表す。「中国人民解放軍」も例外ではない。言わずもがな、中国の軍隊である。ただし「中国軍」と呼ぶのはふさわしくない。中華人民共和国という国家でなく、中国共産党という政党に属する軍隊だからだ。戦う相手は「党の敵」であり、必ずしも外国勢力とは限らない。もともと、共産党が国民党を倒すためにつくった軍隊だ。国内を含め敵の支配下にある人びとを解放する。それを任務とするから「人民解放軍」である。
なぜ国防軍ではだめなのか。研究者に尋ねたことがある。次の答えが返ってきた。「台湾を解放するまで、名前を変えるわけにはいかない」
解放軍の最も重要な任務は台湾の統一だ。それを悲願とする習近平(シー・ジンピン)国家主席は、解放軍に絶対的な忠誠を求めている。習氏にすれば、解放軍の国軍化はありえない。台湾を取り戻すために、武力を使う選択肢は常に党の手中に置いておく必要がある。
防衛省の防衛研究所で解放軍の動向を分析する杉浦康之主任研究官が注目するのは、ロシアのウクライナ侵攻が解放軍の戦略に与えた影響だ。遠隔で操作する最先端の兵器を使って攻めるだけでは勝てない。大規模な部隊を台湾に送り込み、市街戦も覚悟しなければならない。
一方、ウクライナ戦争をへて中国が核戦力の重要性を再認識した点は見逃せない。習氏が台湾有事の際、プーチン氏にならって核の脅しを考えてもおかしくない。杉浦氏は「米中の核戦力が拮抗すれば台湾有事の危険性は増す」と警鐘を鳴らす。
少し前まで、中国の国内総生産(GDP)は2030年ころに米国を抜くとみられていた。習氏を含む中国人の多くは米国が放っておいても衰退し、台湾を守る力は弱まると考えていたはずだ。実際は、米国に追いつく前に中国の成長力に陰りが出てきた。人口の減少が始まり、深刻な不動産不況を起点とする経済の苦境は出口がみえない。
米国が弱くなるのを待っていては、台湾を統一する時機を逸してしまう。習氏がそう判断したとき、台湾有事は現実味を増す。
・・・中国人民解放軍は、中国共産党の、習近平氏の「私兵」である。習氏が一度心に決めれば、いつでもどこへでも動かせる軍隊であると思うと、やはり脅威であるというほかない。
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