歴史マンガ『センゴク』を18年かけて完結させた作者の宮下英樹が、次は17世紀のドイツ三十年戦争のマンガを描くということを聞いて、自分的には「おお~」という感じがした。掲載誌である雑誌『歴史群像』10月号は、連載開始記念として宮下氏のインタビュー記事を掲載。以下に、なぜ「三十年戦争」なのかを語る部分をメモする。
直感的ですけど、日本史の場合は、戦国時代が軸になっている気がするんですね。戦国時代に興味を持てば、今度は戦国以前と戦国以後というように、日本史全体に興味を持つようになっていきます。それがヨーロッパ史だと、この「三十年戦争」の時代なのかなと思ったわけです。中世の騎士への憧れも残しながら、すでに鉄砲も大砲もある。近世・近代への大きな転換点ですよね。
グスタフ=アドルフとヴァレンシュタイン、彼らが激突したリュッツェンの戦いは描きたいところです。そこに向かってどう面白くしていくかというところで、その前の時代のフリードリヒから描きはじめたわけです。
最終的には、戦争が話し合いで終わるという時代を描きたいんです。戦争をしてどっちかに神の裁きが下るかと思いきや、下らないから、人間同士で話し合って解決しようと。神様がやってくれないなら、人間が自立してやるしかないよという。
・・・日本の16世紀は戦国時代、これに負けず劣らず、ドイツの16~17世紀も面白い。1517年ルターの宗教改革が始まると、カトリックとプロテスタントの対立は激化する一方に。神聖ローマ皇帝カール5世はプロテスタント諸侯をいったんは制圧。しかしその後反撃に遭い、1555年アウクスブルク宗教和議に至る。16世紀の後半はフランスが宗教戦争の中心地に。17世紀に入り1618年、神聖ローマ帝国内のボヘミアで起きた争乱が、デンマーク、スウェーデン、フランス、スペインを巻き込む大戦争に発展。これが三十年戦争で、教科書的には最後の宗教戦争にして最初の国際戦争であり、1648年ウェストファリア条約締結で戦争が終了すると共に主権国家体制が確立した、とされる。宗教改革からウェストファリア条約までは、まさに歴史のダイナミズムが感じられる時代(ということはたくさんの血が流れた時代)なのである。
戦国時代が日本史の大きな転換点ということについても、かつて歴史学者の内藤湖南が「応仁の乱」以前と以後、という日本史の見方を示したことはよく知られている。日本もヨーロッパも、16世紀から17世紀が歴史の大きな転換点だったと言ってよいだろう。
三十年戦争のマンガというと「イサック」がある。これは、17世紀のヨーロッパで日本人が活躍するという意欲的な設定の物語。たぶん宮下氏の「神聖ローマ帝国 三十年戦争」は、より史実に密着したマンガになるのだろう。月刊誌の連載なので、完結まで何年かかるのか早くも心配になるわけですが(苦笑)、大いに期待したいマンガです。