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2022年9月26日 (月)

『百億の昼と千億の夜』

先日、萩尾望都のマンガ『百億の昼と千億の夜』(原作は光瀬龍のSF小説)の完全版が、河出書房新社から発刊された。

略して「百億千億」は、1977年に「少年チャンピオン」に連載。何と45年前。自分は高校生だったが、まさに宇宙論的なスケールの物語で、阿修羅王、シッタータ、ナザレのイエスなどの宗教キャラが時空を超えて活躍するという、何だか難しそうなマンガだなあという感じがして、部分的にしか読んだことがなかった。ということもあり、今回の機会に初めて最初から最後まで読んでみた次第。

で、宇宙の中の人類というか生命の存在理由を考える物語というか、しかし結局いまひとつよく分からない話ではあった。でも、やっぱりこの話をマンガ化した萩尾望都は凄いなあと思う。なかでも阿修羅王の凛々しさと強さが放つ魅力は、このマンガのとりわけ後半部分を隅々まで支配していると言って良い。あっ、でも「敵役」に配されたナザレのイエスも、結構いい味出してるキャラだよな。

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「百億千億」もまあまあ有名作品とは思うが、萩尾望都の代表作といえば「ポーの一族」「11人いる!」だろう。でも、やっぱり難しそうな感じがして読んでない(苦笑)。萩尾望都マンガで、自分が好きなのは初期作品の「ケーキケーキケーキ」。分かりやすいし、とてもいい話なので繰り返し読んだ覚えがある。

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2022年9月19日 (月)

「センゴク」から「三十年戦争」へ

歴史マンガ『センゴク』を18年かけて完結させた作者の宮下英樹が、次は17世紀のドイツ三十年戦争のマンガを描くということを聞いて、自分的には「おお~」という感じがした。掲載誌である雑誌『歴史群像』10月号は、連載開始記念として宮下氏のインタビュー記事を掲載。以下に、なぜ「三十年戦争」なのかを語る部分をメモする。

直感的ですけど、日本史の場合は、戦国時代が軸になっている気がするんですね。戦国時代に興味を持てば、今度は戦国以前と戦国以後というように、日本史全体に興味を持つようになっていきます。それがヨーロッパ史だと、この「三十年戦争」の時代なのかなと思ったわけです。中世の騎士への憧れも残しながら、すでに鉄砲も大砲もある。近世・近代への大きな転換点ですよね。

グスタフ=アドルフとヴァレンシュタイン、彼らが激突したリュッツェンの戦いは描きたいところです。そこに向かってどう面白くしていくかというところで、その前の時代のフリードリヒから描きはじめたわけです。

最終的には、戦争が話し合いで終わるという時代を描きたいんです。戦争をしてどっちかに神の裁きが下るかと思いきや、下らないから、人間同士で話し合って解決しようと。神様がやってくれないなら、人間が自立してやるしかないよという。

・・・日本の16世紀は戦国時代、これに負けず劣らず、ドイツの16~17世紀も面白い。1517年ルターの宗教改革が始まると、カトリックとプロテスタントの対立は激化する一方に。神聖ローマ皇帝カール5世はプロテスタント諸侯をいったんは制圧。しかしその後反撃に遭い、1555年アウクスブルク宗教和議に至る。16世紀の後半はフランスが宗教戦争の中心地に。17世紀に入り1618年、神聖ローマ帝国内のボヘミアで起きた争乱が、デンマーク、スウェーデン、フランス、スペインを巻き込む大戦争に発展。これが三十年戦争で、教科書的には最後の宗教戦争にして最初の国際戦争であり、1648年ウェストファリア条約締結で戦争が終了すると共に主権国家体制が確立した、とされる。宗教改革からウェストファリア条約までは、まさに歴史のダイナミズムが感じられる時代(ということはたくさんの血が流れた時代)なのである。

戦国時代が日本史の大きな転換点ということについても、かつて歴史学者の内藤湖南が「応仁の乱」以前と以後、という日本史の見方を示したことはよく知られている。日本もヨーロッパも、16世紀から17世紀が歴史の大きな転換点だったと言ってよいだろう。

三十年戦争のマンガというと「イサック」がある。これは、17世紀のヨーロッパで日本人が活躍するという意欲的な設定の物語。たぶん宮下氏の「神聖ローマ帝国 三十年戦争」は、より史実に密着したマンガになるのだろう。月刊誌の連載なので、完結まで何年かかるのか早くも心配になるわけですが(苦笑)、大いに期待したいマンガです。

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2022年9月18日 (日)

堀内誠一の「ぐるんぱ」

先日、「堀内誠一 絵の世界」展(神奈川近代文学館、25日まで)を観た。名作絵本として知られる『ぐるんぱのようちえん』の絵を描いた人である。

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『ぐるんぱのようちえん』は1965年発行。1959年生まれの自分は、まさに幼稚園児の時に読んで強く記憶に残った。現在まで240万部を発行しているという。
ひとりぼっちでぶらぶら、めそめそしていた象の「ぐるんぱ」は、仲間の象に送り出されて、人間の世界に働きに出る。行く先々の仕事場で超特大のビスケット、皿、靴、ピアノ、スポーツカーを作っては次々にクビになってしまう(今から思うと何でも作れるのが凄い 笑)が、最後はそれらを使って子供たちの遊び場となる幼稚園を作る、というお話。失敗ばかりしていたぐるんぱだけど、最後には自分の居場所を見つけることができて本当に良かったなあと(子供の頃そこまで考えてないけど)思える、とても好きな絵本だった。ロングセラーになっているのも分かるなあ。

さらに私事につなげると、堀内氏は1932年(昭和7年)、東京・向島生まれ。生まれ年は自分の母親と同じ、出生地は自分が卒業した小学校のある地域。

展示作品の大部分は絵本や挿絵などの作品。そのほかエディトリアル・デザイナーとしての仕事もあり、雑誌「アンアン」「ポパイ」「ブルータス」のタイトルロゴ・デザインの作者でもある。

幼少の頃、自分はそれとは知らず堀内氏の描いた象の「ぐるんぱ」が深く心に残り、10代後半以降も、それとは知らず堀内氏がロゴ・デザインした「ポパイ」や「ブルータス」に親しんでいたのであった。

堀内氏は、詩人の谷川俊太郎や文学者の澁澤龍彦とも交流していた。谷川とのコラボには『マザー・グースのうた』の挿絵がある。

絵本を中心に多方面に才能を発揮した堀内氏は1987年、54歳で急逝。早すぎる死であったとしか言いようがない。

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