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2020年9月27日 (日)

義昭・信長、「二重政権」の綻び

書店で目に付いた『戦国期足利将軍研究の最前線』(山川出版社)が、なぜか気になり購入。今年5月発行のまだ新しい本。編者である山田康弘先生が執筆している序章は、応仁の乱の後の足利将軍(9代~15代)7人についての、簡潔で分かりやすい解説。さらに山田先生の単著『戦国時代の足利将軍』(吉川弘文館、2011年)も、アマゾンで古本を購入。こちらも読みやすい本だった。呉座先生の『応仁の乱』がヒットする前に、こういう「室町本」が出ていたのだな。

戦国時代の足利将軍といえば、最後の15代義昭を思い出す人が割と多いのではないか。しかしその人物イメージは、織田信長の支援を受けて将軍になったものの、結局は傀儡というか、あたかも「天下布武」実現のための道具として使われたような感じ。でも山田先生は『戦国時代の足利将軍』の中で、義昭と信長の関係について、「将軍と大名とが相互に補完しあうというこのような『二重政権』構造は、義昭以前の歴代将軍においても一般的にみられたのであり」、義昭と信長の「二重政権」についても「前代からの連続性という面にもっと注目すべきである」、と興味深い指摘を行っている。

もともと室町幕府は、将軍と守護大名の連合政権という性格が強かった。応仁の乱以後、幕府の権力の及ぶ範囲が畿内周辺にスケールダウンする中でも、将軍と細川氏あるいは三好氏などサポート役の大名が、お互いに利用し利用されるという関係が続いていた。従って信長も上洛後、ひとまず細川や三好のポジションを占めたという見方もできる。

だが「信長の一つの特徴はその旺盛な勢力拡大欲」であり、そこが前代のサポート役の大名と大きく異なる点だった。当時の戦国大名は、「どの大名も優越的な地位を占めないように大名同士で頻繁に同盟関係を組み替えながら力のバランスを保っていく」という「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」を行動原理として持っていた。従って信長勢力の急速な強大化は、当然のように畿内周辺大名の反発を招き、激しい戦いが続く中で、さらに多くの大名が参加して信長勢力の抑え込みを図ることになる。

このいわゆる「反信長包囲網」は、義昭にとってもメリットのあるものだった。「そもそも戦国時代の歴代将軍は『危険性の分散』をはかるため、幅広い複数の在京大名に支えられる、という体制の再構築を目指し」ていたのであり、義昭もまた、自らのサポートを信長だけに依存するのはリスクが大きいと見ていたと思われる。従って義昭にとって、「信長以外の幅広い大名たちと積極的に連携していくことは自身の安全保障上どうしても必要なことだった」のである。

この義昭の諸大名との連携の動きは、ひたすら勢力拡大を志向する信長の目には、敵対的に映ったであろうことは想像に難くない。この辺の思惑の違いが、信長と義昭の関係が協調から対立に変化し、さらに決裂につながる一つの要因になったようだ。

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2020年9月14日 (月)

映画「ミッドウェイ」

映画「ミッドウェイ」(ローランド・エメリッヒ監督)が公開中。その内容は、パールハーバー攻撃から初の東京空襲、珊瑚海海戦そしてミッドウェイ海戦まで、1941年12月から1942年6月まで太平洋戦争最初の半年間を、日米双方の視点から(人間ドラマの部分はアメリカ中心だけど)描き出すものである。

こういう風にパールハーバーからミッドウェイまでをつなげてみると、アメリカ側から見る流れ、すなわち最初に大打撃を受けてから一矢を報いるべく反撃を続けて、遂に大逆転勝利を挙げて立ち直るというストーリーは、実にドラマチックだなと思う。日本側からすると、パールハーバーの大成功とミッドウェイの大惨敗は、まさに天国と地獄、全く異なる次元の出来事のように見えるので、ふたつの戦いの間をつなげるストーリーなど思いつくことすら難しい。

しかし本当に最近は映像技術が発達しているので、戦争映画も兵器や戦闘の再現度が驚異的なレベルにあるというほかない。海戦だろうが空中戦だろうが、戦闘場面は本当にどうやって撮ったんだろうというか作ったんだろうというか、ホントにもう今は何でも映像にできちゃう感じで、とにかくよくできている映画だな、とは思う。

とりあえずアメリカ海軍というと、人物ではハルゼー提督に自分は着目してしまう。いかにも親分肌のファイト溢れるキャラの司令官を、この映画ではデニス・クエイドという俳優が、概ね人物イメージ通りに演じていると思う。

日本空母に向けて急角度で突っ込み、爆弾を落として反転急上昇する急降下爆撃のシーンの迫力は強烈だ。爆撃機のパイロットは命知らずでないとできないなと実感する。情報戦で成果を挙げるなど裏方の努力もあるにせよ、最後は「勇敢なヤツがいないと戦争には勝てない」という作りになっているのは、やっぱりアメリカ市場向け映画という感じではあるな。

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