映画「天皇と軍隊」
映画「天皇と軍隊」は、パリ在住の渡辺謙一監督が手がけたドキュメンタリー。元々はフランスの放送番組(90分)として2009年に制作されたもので、日本公開は想定していなかったが、配給者側の働きかけにより今回の上映が実現したらしい。と言っても、今月中の上映スケジュールは東京(終了)、横浜、名古屋それぞれ一館、一週間、一日一回のみという超限定公開。とりあえず土日に行くしかない自分は、終戦記念日でもある本日、「横浜ニューテアトル」の公開初日(監督挨拶あり)の上映を観た。なお、東京「ポレポレ東中野」は10月の再上映を予定している。
映画は冒頭、ロラン・バルトの「この都市には空虚な中心がある」という言葉から始まり、過去と現在の映像、そして政治家や学者などのインタビューを織り交ぜながら、マッカーサーと昭和天皇、憲法第1条と第9条、東京裁判、日米安保、靖国参拝などのテーマが次々に語られていく。そして最後に置かれるのは、終戦直後の広島における天皇巡幸の場面。監督が、小熊英二の著作『〈民主〉と〈愛国〉』表紙カバーにインスパイアされて探し出したという映像だ。(天皇を大歓迎する群衆、遠くに見える原爆ドームという構図には、微かな困惑にも似た何となく落ち着きの悪い微妙な気持ちになる)
上映終了後の監督のスピーチでは、東京裁判は天皇免責を抜きにしては語れない、との話があった。この作品は、もともとの制作意図から「教科書的」に作られているわけだが、もし監督の作家性を押し出したならば、より「天皇免責」を強調した作品になったのではないかと思われた。
さて作品タイトルである「天皇と軍隊」が意味するのは、憲法1条と9条である。「天皇制の存続は戦争の放棄を代償として保障された。憲法1条と9条はコインの表と裏だ」とナレーションされるように、おそらく本来は1条と9条はセットで考えるべきものなのだろう。作られた当初の憲法は、映画の中で政治家の中川昭一(故人)が述べる「占領軍が作った占領下における、憲法という名の占領のためのルール」という性格を負わされていたのは否定できないと感じる。そう考えれば、サンフランシスコ講和条約後も日本は「準占領体制の継続」(樋口陽一・法学者)を受け入れたのであり、憲法と自衛隊及び安保条約との齟齬を抱えたままやってきた「戦後体制というのは欺瞞」(木村三浩・右翼団体代表)だという見方も、頷けるものがある。
しかし戦後70年という時間が過ぎて、今では憲法1条も9条も殆ど形骸化している感じはあるけどね。
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