「イスラム国」の危険な挑戦
「文藝春秋」3月号、池上彰と佐藤優の対談(イスラム国との「新・戦争論」)からメモ。
池上:(「イスラム国」は)シリアとイラクに跨って国境線を無視した組織を作っていますが、これは、第一次世界大戦中に英仏露がオスマン帝国の領土分割を決めたサイクス・ピコ体制を打破したという解釈ができる。
彼らの目的はヨーロッパが勝手に決めた国境にとらわれず、自分の領土を広げたいということです。目標は、西はスペインから東はインドネシアまで、一時でもイスラムであったところは取り返したい。
佐藤:多くの人は、圧倒的多数のイスラムは平和愛好的で、過激なのはごく一部だといいますね。しかし、実際なぜこんなに過激な人が出てくるのか。宗教の構造自体に踏み込んでみた場合、特有の問題点がある。
「イスラム国」も、スンニ派の四つある法学派のうちハンバリー法学派に属しています。その特徴は、『コーラン』と『ハーディス』に全てが書いてあり、この中にしか真理はないということ。この二つの書に書いてある通りにやっていますと言われれば、信者は何となく納得してしまう。
池上:イスラム教徒の多くは平和を望んでいても、『コーラン』や『ハーディス』の片言隻句を取り出していくと、相当危険な論を作ることができるんですね。
佐藤:彼らの歴史の考え方は「進歩史観」でなく、「下降史観」です。社会は時間が経てば経つほど悪くなる。近代的な価値観はなく、昔ほどいいと考える。
池上:イスラムの今は堕落した世界で、ムハンマドの時代はすべて神の前で平等だったという理想を描く。その時代に戻ろうというのがイスラム復興運動であり、イスラム原理主義なのです。そもそも、彼らには「神の主権」という考え方がある。神様がすべてを作ったんだから、国民主権や民主主義なんておかしい、主権は神様が持つべきだと。その近代に挑戦する論理を「イスラム国」も上手く使っている。
佐藤:「イスラム国」が問題なのは、人類の普遍的価値に反する論理を世界に強要する、つまり「革命の輸出」を行っていることです。彼らは基本的人権をはじめとする現代の普遍的価値に挑戦しているのです。
・・・イスラム国の行動は、西欧が生み出した近代的価値観への挑戦にも見える。ただそれも結果的な様相であり、イスラム国は基本的には、イラク・シリアの混乱に乗じて勢力を拡大した原理主義的暴力組織でしかない。
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