ROE数値目標化の倒錯
自己資本利益率(ROE)は、株主の出資である自己資本に対する、当期純利益の比率。数値が高ければ「良い企業」ということだが、数値だけに注目するのはROEの正しい扱いとは言えないだろう。本日付日経新聞「経済教室」(財務戦略より利益拡大を)は、宮川壽夫・大阪市立大学教授の寄稿。以下にメモする。
ROEはモノサシにすぎず、目的ではない。株式会社の目的は企業価値の最大化だ。
資本構成を変えても、企業が獲得する将来のキャッシュが増えない限り、企業価値の創造は起こらない。これが原則だ。
ROEは売上高利益率、総資産回転率(売上高/総資産)、財務レバレッジ(総資産/自己資本)に分解される。筆者が分析したところ、ROEに影響を及ぼすのは売上高利益率がほとんどで回転率やレバレッジの説明力は極めて低い。
ROEを改善するうえで財務戦略の工夫や資産のリストラは引き続き必要な条件だ。しかし、それ以上に売上高利益率という本業のビジネスモデルへの対応が根本的問題といえる。
ROEは、それを高めるための具体的な事業戦略なしに経営目標とするには単純にすぎる。
問題はROEが資本コストを上回っているかどうかにある。結論だけを示せば、株価モデルを展開すると資本コストとROEが等しい企業のPBR(株価純資産倍率)は1になることが証明できる。つまりPBR1倍割れはROEが資本コストを下回っていることを意味する。
筆者の分析では、上場企業のうちほぼ60%がPBR1倍割れとなっている。逆説的だが、これは単に企業の努力不足という一点だけでは説明がつきにくい。ROEの多面的な解明が求められる。
・・・ROE向上実現に向けて取り組むべきは、まず本業の利益率改善。企業価値を高めるには、小手先の財務戦略ではなく、「稼ぐ力」の強化という基本に還るべし、だ。
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