「グローバル・ジハード」の脅威
イスラム過激派のジハード主義。それはイスラムの教義に含まれる政治・軍事的な規範についての特定の解釈を、強制力(ジハード=聖戦)で実践しようとするイデオロギーである――本日付日経新聞「経済教室」(「テロ思想」強まる拡散懸念)、池内恵・東京大学准純教授の寄稿から以下にメモする。
イスラム教の根幹はイスラム法にある。7~12世紀を中心に、イスラム教の創立と拡大期の社会・政治情勢を反映したものだ。アラビア半島で多神教徒を制圧し、キリスト教徒やユダヤ教徒を支配下に置いた経緯は聖典コーランや預言者ムハンマドの言行録に記されている。それが大帝国の形成過程で異民族・異教徒を支配する側の法として体系化された。
20世紀後半、一度は西洋起源の国際法秩序や人権規範を受け入れたイスラム諸国で、外来の規範を排除し、再びイスラム法を施行しようとする潮流が広まった。問題は、武力によるジハードを信仰者の義務だと唱導するジハード主義の伸長である。
通説的な法学解釈によれば、イスラムの支配に服従しない異教徒がジハードの対象になる。ウサマ・ビンラディンのアルカイダが攻撃対象としたのが、湾岸戦争後の米国主導の「新世界秩序」である。「9.11事件」後、米国は全力を挙げて対テロ戦争に取り組み、潜伏下に置かれたアルカイダは「組織からイデオロギー」への変貌を遂げた。イデオロギーとしてのアルカイダは、各地に独立した支部や関連組織を生み出していった。
アルカイダそのものの勢力や威信が衰えてもグローバル・ジハードの理念そのものは衰えず、アルカイダの中枢の直接の指揮命令系統にはつながっていない、非集権的で分散型のネットワークに、グローバル・ジハードは担われるようになった。
イデオロギーの拡散は軍事力では阻止できない。イラク・シリアと地理的に連続しない各地で、イデオロギーや行動モデルに共鳴する集団が勝手にイスラム国を宣言し、世界各地がまだら状に「イスラム国」になってしまう危険性を、注視しなければならない。
・・・冷戦終結時、自由な民主主義が社会主義とのイデオロギー闘争に勝利した、と言われた。いま「アルカイダ」イデオロギーは、欧米及び欧米的価値観をベースとする民主主義各国の脅威となりつつある。もちろん暴力的イデオロギーが最終的に勝利するはずもないが、この戦いはそう簡単には終結しないという予感もある。
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