「鈴木書店」の栄枯盛衰
こんな本が出てたんだ。『鈴木書店の成長と衰退』(論創社)。発行は今年9月だからごく最近だ。鈴木書店は13年前に倒産した出版取次(一般的には問屋に当たる。大手はトーハン、日本出版販売)。人文社会科学書を専門に取り扱い、出版社では岩波書店との関係が深く、販売先では大学生協に強みを持っていた。
戦後、人々が本に「飢えていた」時代から、やがて社会の安定、高度成長期を経て、1970年前後の左翼系書物がよく売れた時期が、人文書=鈴木書店のピーク。その後専門書が売れなくなってくると、出版社を始めとする業界の収益構造は変化していく。
「重版やロングセラー商品の売れ行きが落ちてきて、それをカバーするために出版社は新刊点数を多く出すようになってきた。重版やロングセラーは客注や常備品に近いものだからほとんど返品にならなかったが、新刊は当たり外れが極端だから返品率がどうしても高くなってしまう。そういう新刊ラッシュ状況の中に鈴木書店も完全に巻き込まれてしまった」
出版業界の収益構造の高リスク化は、鈴木書店にマイナスの影響を大きく与えた。事業は長期低落傾向となる。この本の中では触れられていないが、80年代にはニューアカ・ブームが人文書の追い風となり、仕入を担当する井狩春男氏の「まるすニュース」が業界内で注目されるも、収益悪化傾向を反転させるには至らなかった。
そして2001年末、鈴木書店倒産。危ないという噂は聞いていたので「とうとう・・・」とも感じたけど、やはりショックだった。
出版業界の人向けであろうこの本を、なぜ証券会社のサラリーマンである僕が読むのかといえば、もう30年も前のこと、ちょっとだけ出版社にいたからだ。新曜社という心理学・社会学の専門書出版社。僕の仕事は花形の編集・・・ではなく、販売・在庫管理事務で、鈴木書店にも新刊見本を持参していた。3年半程で辞めてしまったけど。学校出てプータローだった僕を採用してくれた堀江洪社長は2007年に亡くなった。志ある出版人がまた一人、世を去った。そんな思いを持った。
経済的な思考や実学が優勢な今の世の中で、人文知は見捨てられていた感が強かった。でも、最近どうやら「教養」が見直されている気配。人文知がかつての輝きを取り戻すとも思わないのだが、個人の教養そして社会の文化、その基盤を支えているのは人文知であることも再認識されて欲しいと思う。
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