皇帝フリードリヒ2世とニーチェ
今月は、『皇帝フリードリヒ二世』(中央公論新社)の文字を追い続けて、先日やっと巻末まで辿り着いた。何とか年内に目を通した(読んだ、とはとても言えない)ので、ささやかな達成感あり。
で、二段組み700ページを超す大著の中からとりあえずピンポイントというか、哲学者フリードリヒ・ニーチェが神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世に大いに注目した、ということについて感想。
13世紀中世の時代に「アンチキリスト」と呼ばれ、「余は鎚でありたい」と語った皇帝に対して、「アンチキリスト」を自称し、「ハンマーをもって哲学する」ことをモットーとした哲学者は、「自分に最も似た人物の一人」と評するなど非常な共感を示した。
十字軍を率いた皇帝は、イスラームと戦わずして外交交渉でエルサレム共同管理を実現する一方、ローマ教皇とは生涯に渡り戦い続けた。皇帝を破門した教皇は、皇帝はイエス、モーセ、ムハンマドを詐欺師呼ばわりしたと難じた。
この「三大詐欺師」発言には証拠はない(この辺の話は、講談社現代新書『神聖ローマ帝国』にも記されている)そうだが、この破天荒な個性を持つ中世キリスト教世界の皇帝は、ニーチェの生きた19世紀の言葉を使うならば、徹底的な「ニヒリスト」と呼んでもおかしくないし、そこにニーチェがおのれに通じる人間を見出すのもむべなるかなという感じである。およそ600年の時を隔てた皇帝と哲学者、その生の在り様は余りにも対照的だが、奇しくも両者ともに同じ55歳で生涯を閉じたのだった。
(少し別の話を付け加えると、「三大詐欺師」のテーマは18世紀頃、スピノザ哲学による肉付けを得て、啓蒙時代の地下文書としてヨーロッパに流通することになる)
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