2023年2月28日 (火)

プーチンの欧米憎悪

27日付日経新聞オピニオン面掲載フィナンシャルタイムズのコラム記事(プーチン氏、「脱欧米」へ執念)から、以下にメモする。

ロシアのプーチン大統領は21日の年次教書演説で、ウクライナ侵攻の継続を強調しただけでなく、同時に自国の政治や経済、社会の目指すべき方向性も示した。それは、西側諸国との完全な決別の意志を改めて裏付けるものだ。

同氏は軍事作戦が、国内の反体制派を一掃し、「敵対的」あるいは「退廃的」な西側の影響力を遮断することと密接に結び付いていると力説した。
換言すると、ウクライナの領土の恒久的な支配だけを狙っているのではない。欧米の影響をこの先、一切排除する形でロシア社会を再構築することも意図しているのだ。

演説の眼目は自国が軍事、政治、経済、文化のあらゆる面で西側の攻撃にさらされており、欧米の手先として動いているのがウクライナの現政権だという主張に置かれた。
演説で目を引いたのは、西側に渡ってぜいたくな暮らしを続けようとする新興財閥(オリガルヒ)を何度も見下したことだ。対照的に、ロシア正教に古くから根差す民族的アイデンティティーは繰り返したたえた。
プーチン氏は、国家と社会を自身の理想に沿って造り替えた暁には、親欧米的な価値観の入り込む余地は一切ないと、経済界のエリートらに警告を発した。

・・・プーチンの欧米憎悪は、一体全体どこから来ているものなのか。そして、この思念はロシア国民にどこまで共有されているものなのか。わからんなあ。

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2023年2月23日 (木)

独ソ戦の「記憶」

ロシアのウクライナ侵攻開始から、明日で一年が経つ。正直なところ、いまだになぜこんなことが起きているのか、よく理解できない。この戦争が世界の将来にどんな影響を与えるのかについても、既にいろいろ議論されてはいるが、今は何よりも早期の停戦を願うばかりだ。

さて、昭和世代の一部には独ソ戦の「記憶」がある、と言うと怪訝に思われるだろうか。第二次世界大戦後10年以上過ぎた昭和3040年代生まれの世代は、太平洋戦争はもちろん欧州戦線も、映画・マンガ・プラモデルで「学んだ」と言える。田宮模型のタイガー戦車やT34戦車を作り、ソ連映画『ヨーロッパの解放』から独ソ戦の決定的なイメージを受け取ったように思う。

ソ連終焉から約30年が経った2020年代初頭、日本の読書界で「独ソ戦」のテーマが注目され、『独ソ戦』『戦争は女の顔をしていない』『同志少女よ、敵を撃て』が読者を獲得。そして、なぜかその状況に「シンクロ」するように2022年2月24日、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した。かつての独ソ戦の戦場で、旧ソ連の国同士が敵対し、キエフやハリコフの攻防戦が伝えられる事態に、独ソ戦の「記憶」を持つ者としては、深い困惑と奇妙な「既視感」を覚えるばかりだった。現在も戦闘の終わる兆しは見えず、欧米のウクライナ支援も、ロシアが継戦能力を失うまで続く気配が濃厚になってきている。

最近の独ソ戦の研究では、ヒトラーの「世界観戦争」との見方も強調されてはいるが、経済的資源の獲得を目指す収奪戦争であったことも疑いない。これに対して、「プーチンの戦争」とも呼ばれるウクライナ戦争には、純然たる「世界観戦争」の印象がある。独善的な思想を持つ指導者の指令で遂行される戦争が「世界観戦争」であるならば、この戦争が実行可能と見られる国家体制を敷く国々が、日本の近隣に存在している。この戦慄的な地政学的現実への対応として、日本が戦後の安全保障政策の大転換に踏み出したことは、基本的な方向性として是認できる。

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2023年1月26日 (木)

「レオパルト2」戦車、ウクライナへ

日経新聞電子版25日配信記事「最強戦車レオパルト2を供与へ なぜドイツは迷ったのか」から以下にメモする。

ドイツが「世界最強の主力戦車」とされるドイツ製レオパルト2をウクライナに供与する見通しとなった。しかし決断には時間がかかった。なぜドイツは迷ったのか。

「いまのウクライナ情勢をみていると第2次世界大戦中の独ソ戦をほうふつさせる」。それがドイツ政界関係者の偽らざる心境だ。キーウ(キエフ)、ハルキウ、ドニエプル川、アゾフ海。戦場の地名は第2次世界大戦中のものと重なる。

「正直言ってレオパルト2とロシア製戦車の戦闘はみたくない」とドイツ与党幹部は取材に語った。いまウクライナは戦争の被害者であり、侵略者から領土を守る立場だ。それでも心理的な壁がある。

負の歴史を背負うドイツとしては、自らが北大西洋条約機構(NATO)とロシアの戦争の引き金を引くのは絶対に避けたい。戦後ドイツは「過去への謝罪」に膨大な労力を費やした。その努力が無駄になるリスクがある限り、ドイツ政治は動けない。

慎重居士のショルツ首相は決断のタイミングを探っていたようだ。核保有国の米英仏の3カ国が供与に動くのをじっと待ち、足並みをそろえた。特に米国の意向を気にしていた。動きの鈍さが国内外で批判されたが、「追い込まれた末の決断」という印象のほうが好都合と思っていたフシすらある。

・・・ウクライナは独ソ戦の戦場である。自分のように昔、田宮模型のタイガー戦車やT34戦車を作り、ソ連映画「ヨーロッパの解放」を観た者には、今のウクライナ戦争にはデジャブに近い感覚がある。そうでなくても近年、日本の読書界では『独ソ戦』『戦争は女の顔をしていない』『同志少女よ、敵を撃て』が多くの読者を獲得するなど、ちょっとした「独ソ戦」ブーム。ただの偶然にしては余りにも摩訶不思議なシンクロだ。この現実を、どう理解すれば良いのやら。

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2022年12月25日 (日)

平成の政治改革も今は昔?

12月7日付日経新聞市況欄コラム「大機小機」(令和で再び政治活性化を)からメモする。

平成(1989~2019)は政治改革の時代だった。約40年続いた自民党の政権独占と、その下での政官関係が国民の信頼を失ったことが起点になった。旧態依然とした日本の政治行政の体制では、バブル崩壊後の経済と冷戦終結後の国際環境に対応できないという危機感も強かった。選挙制度改革、省庁再編などが次々と実現した。

国民からの信頼の獲得を目指す政党間の競争、そして政権交代の可能性が政治に規律を与える。同時に政治のリーダーシップの発揮によって、行政や政策が既得権益のしがらみから解き放たれ、国民本位の改革が推進される。成果は別として、こうした理念が一貫して平成の改革の根底にあったことは間違いない。

小泉政権から数えて約20年。政治改革のサイクルが一巡し、昨今の状況は政治不信を招いた90年代に酷似してきていないか。政権交代の期待を担う野党は見当たらなくなった。自民党が選ぶリーダーは内向き・調整型になった。噴出する政治とカネの問題にも既視感がある。

90年代と比べて、内外の環境は格段に厳しくなっている。人口減少と高齢化は現実化し、経済の停滞は打開できないままだ。地政学的対立やエネルギー環境問題の緊迫化の中で、日本の針路選択は不透明さを増している。政治家には国益を見据え、歴史感覚を持ち、国民本位で蛮勇を振るうことを期待したい。

・・・平成時代の政権で改革イメージが強いのは、細川、橋本、小泉、安倍というところか。特に安倍政権は長期政権となり、金融・財政から働き方改革まで、経済改革はひと通り取り組んだという印象がある。しかし反面、いわゆる成長戦略あるいは構造改革は、まだまだ足りないと指摘されるところ。令和の日本政治は、とりあえず平成でやり残した改革を進めることになるのだろう。

ところで昨今の防衛予算の増額、原発政策の修正、NISA大改造などを見ていると、意外と岸田政権はリアリズムで課題に取り組むのだな、という感じがしてきた。支持率は低下傾向だけど、取って代わる人も特に見当たらないし、何となく続いていくのかな。

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2022年5月25日 (水)

「ネオナチ」批判、空回り

日経新聞電子版本日付配信記事「プーチン大統領、ネオナチ批判の重いツケ 侵攻3カ月」からメモする。

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して3カ月。プーチン大統領は侵攻理由のひとつに、ナチズムとの闘いを掲げる。ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ政権」と非難。第2次世界大戦で当時のソ連がヒトラー率いるナチス・ドイツに勝利した歴史と重ね合わせ、ロシア国民の愛国心をあおって侵攻を正当化しようとしている。だが、こうした戦術が奏功しているとは言い難い。

プーチン氏が執拗にネオナチを持ち出し、ウクライナ非難の宣伝材料にするのには理由がある。第2次大戦前後にウクライナの独立運動を主導した政治家ステパン・バンデラの存在だ。
バンデラは「ウクライナ民族主義者組織」の指導者で、ウクライナ西部を中心に戦前はポーランド支配、その後はソ連支配からの独立を求めて武力闘争やテロ活動を主導した。1959年、滞在先のミュンヘンでソ連国家保安委員会(KGB)の工作員によって暗殺された。
ソ連による占領に対抗するため、一時的にナチス・ドイツとの協力を唱えた経緯があり、旧ソ連やロシアではバンデラを「ヒトラーの協力者」、バンデラ主義者を「ネオナチ」とみなす。一方、ウクライナでは91年末の国家独立以降、バンデラを英雄視する傾向が強まり、各地に銅像も建てられるようになった。
ロシアを中心に旧ソ連ではもともと、ナチズムへの嫌悪感が根強い。第2次大戦の対独戦で3000万人近い犠牲者を出したからだ。一時的にせよナチスと協力したバンデラの存在は、ウクライナ侵攻で国民の支持を得たいプーチン氏にとって格好の宣伝材料となっている。

ただし、政権の思惑が必ずしも成功しているわけではない。「ウクライナ情勢で何を懸念しているか」。民間世論調査会社のレバダ・センターが4月に実施した調査によると、民間人やロシア兵を含めた人的犠牲が47%を占めた。半面、バンデラ主義者やナチズム信奉者の脅威を挙げたのは6%にすぎなかった。

・・・「ネオナチだから敵だ」という主張は、NATOに接近するウクライナを「敵」と見做して、後からネオナチのレッテル張りをしているだけのこと。そんなバレバレの主張で戦争を起こす人間というのは、やはり正気ではないとしか言いようがない。「極悪」のシンボルとして引き合いに出されたナチスにも、お門違いの「不名誉」であるかも知れないと、かつてドイツと同盟国だった極東の島国の住人であるワタシは思ったりする。

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2022年5月 9日 (月)

プーチンの戦争の行方

今日のロシアの「戦勝記念日」におけるプーチン大統領の演説では、「戦争状態」宣言など新たな展開を示す言葉は語られなかった。一方で、ウクライナとの戦争を止める気配も皆無。ということで現状ロシアの苦戦が伝えられる中、敗北を回避しつつ戦争を終わらせるために、ロシアが限定的に核兵器を使う可能性も消えていない。「文藝春秋」5月号掲載「徹底分析プーチンの軍事戦略」(小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師)から、以下にメモする。

プーチンがウクライナでの戦争を簡単に終わらせるとは考えられません。現状、ウクライナへの全面侵攻によって、ロシアに何か特別な利益がもたらされたとは思えない。

こうなると従来は心理戦だと考えられてきたエスカレーション抑止戦略が、突如として現実味を帯びてくる。限定的に核を使用し、ロシアにとって有利な形で戦争を終わらせようとするのではないかという可能性が高まってきたのです。

※エスカレーション抑止:戦争に負けそうになったら、一発だけ限定的に核を使用する。その核の警告によって相手に戦争の継続を諦めさせる、あるいは、ロシアにとって受け入れ可能な条件で戦争を停止させることができると考える。

ロシアの限定核戦争にどう対応するかは、その時の指導者や国民の気分次第です。使用した場所がウクライナ域内だったとしても、アメリカがロシアの無人地帯に向けて、核での報復を行う可能性はあります。

そこから先は、不確実性に不確実性を積み重ねていく世界です。どこまでエスカレートするかは、神のみぞ知る。なにしろ核のボタンを握っているのはあのプーチンです。彼の精神状態が良くない方向に嵩じて行けば、全面核戦争に踏み込んでもおかしくはない。
仮に「ロシア対アメリカ・NATO」の全面核戦争に発展した場合、日本も無関係ではいられません。

ロシアの軍事思想を踏まえると、彼らは有事の際には、アクティブ・ディフェンス(攻撃的な防御)の構えをとる。攻撃を受ける前に敵の戦力発揮能力を破壊する行為が防御のうちに含まれているのです。となれば、ロシアは確実に日本の米軍基地を狙ってきます。つまり、このウクライナ戦争は日本にとって対岸の火事ではない。

日本も含めた国際社会に求められるのは、ロシアが核使用までエスカレートする前に、プーチンとゼレンスキーを交渉のテーブルにつかせること。プーチンの最低限のメンツを保ちつつ、かつウクライナの主権を奪われない形でなんとか話を妥結する必要があります。

・・・とにかく両国の大統領の会談が実現しなければ、戦争を終わらせて和平に向かうプロセスの入り口にも立てない。そして今のところ、その入り口すら遠くて見えない状況というほかはない。

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2022年4月21日 (木)

ロシアの近未来像は

ウクライナ戦争が終結する時、プーチンのロシアに何が起きるのか。以下は、小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師の見方。(雑誌「Wedgeウェッジ」5月号掲載のインタビュー記事からのメモ)

(ロシアの「勢力圏」と「大国」意識について)
ロシアには「大国」を中心とする国際秩序観がある。「勢力圏」というのは、西欧は米国のシマであり、東欧はロシアのシマという認識だ。特徴的なのは、「勢力圏」と、「ルーシ(スラブ)の民は一つ」というナショナリズムが癒着していることだ。昨年7月にプーチン大統領は『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』という論文を発表したが、現状においても「ウクライナは西側にたぶらかされているから、ロシアが保護する必要がある」と、あたかも自分たちこそがスラブ民族の救世主であるかのごとく考えている。

(ウクライナ侵攻の理由)
「ウクライナとロシアの統一」とは観念的で、フワッとしている。プーチン大統領が頭の中ではそのように考えていたとしても、政治家であれば現実的に行動するのが普通だ。今回の場合、いわば、頭の中の考えをそのまま外に出してしまったようなものだ。なぜ戦争まで踏み込んだのかは不明だ。

(「戦後」のロシアについて)
戦後については4つのシナリオが考えられる。まず、「大北朝鮮化」、つまり「プーチニスタン」の出現だ。大量破壊兵器の使用も辞さず、何を起こすのか分からない。国際的にも完全に孤立する。
次に、現政権内部でプーチンを引きずり降ろす可能性である。プーチン後を誰が率いるかが課題だ。
3つ目は、国民とエリートが合意して現在の権力構造を変えることだ。
最後に、ロシアの人々が最も恐れる状況が「大動乱(スムータ)」だ。「第二次ソ連崩壊」と言えるかもしれない。誰も全土を統治できる人間がおらず、混乱が続くという状況だ。

・・・さすがに「大北朝鮮化」だけは勘弁してほしい。のだが、新型ICBM発射成功を自信たっぷりに発表するプーチンを見ていると、北朝鮮化が確実に進んでいるようにも思える。

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2022年4月20日 (水)

ロシア「KGB政権」

KGB出身のプーチンを「皇帝」として戴くロシアは、かつての共産党ソ連よりも厄介な国家になっていると思われる・・・本日付日経新聞「中外時評」(ロシアに巣くうKGBの亡霊)からメモする。

ロシア軍によるウクライナ侵攻開始からもうすぐ2カ月。ロシアでは制裁の影響で物価が上昇するなど、国民の間に不満の芽が出つつある。しかし、プーチン大統領は全体主義と恐怖政治で、それを覆い隠そうとしている。

連邦保安局(FSB)は、ソ連時代の国家保安委員会(KGB)の流れをくむ治安・情報機関だ。もとをたどれば16世紀に、イワン雷帝が反皇帝勢力を弾圧するために創設した親衛隊オプリーチニキに行き着く。以来、名称や勢力は変えながら、時の権力者がよみがえらせてきた。
そんな亡霊のような存在が侵攻をきっかけに、ソ連崩壊以降最も活発に活動し始めた。KGB出身のプーチン氏が大統領に就任したのが2000年。それ以降、側近をKGB出身者で固めたうえで、憲法を改正したり、有力企業を政府の支配下に置いたりして、長期独裁体制を整えてきた。
野党は事実上存在せず、与党「統一ロシア」はプーチン氏の政党だ。ソ連時代は共産党とKGBがけん制し合う側面もあった。だが、いまの政権を支配するのは、西側を敵視し、力を信奉し、異論は許さないKGBの論理のみだ。

デモ参加者は有無を言わさず拘束。家族をも巻き込む手法は伝統だ。情報統制も徹底している。多くの国民は政府のプロパガンダを信じるしかなくなった。
あの手この手のプロパガンダは、戦争に異議を唱えることを許さない。
だが、国民は多数の若い兵士が戦死したことを知り、外国との関係を断たれたことによる困難と不自由さを味わい始めている。政権側は「すべては西側のせい」と批判をかわそうとしているが、それにも限界がある。行き着く先は、独裁による恐怖政治だ。

KGBの亡霊が巣くうロシアは、侵攻前より不安定さを増している。世界にとって危うい存在であり続けるのは間違いない。

・・・一党独裁とプロパガンダ。KGB出身のリーダーとKGBの後継組織が支配するロシアは、ナチス・ドイツと相似形の国家としか見えない。

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2022年4月 3日 (日)

スターリン化するプーチン

本日付日経新聞の「NIKKEIAsia」オピニオン記事(スターリンと似るプーチン氏)からメモする。

ロシアのプーチン大統領はかつて、尊敬する人物はピョートル大帝だと語った。18世紀初頭にロシアを近代欧州の列強の一つに仕立て上げた人物だ。彼の最も素晴らしい遺産は、西部に建設した都市サンクトペテルブルクで、1917年のロシア革命まで首都であり続けた。

指導者としてのプーチン氏は、ジョージア(グルジア)出身で22~53年にソ連を率いたスターリンに似ている。スターリンは30年代の「大粛清」での弾圧や拷問、強制収容により、多くの死者を出した。プーチン氏は大粛清ほどの犠牲を生んでいないとはいえ、振る舞いは冷酷な独裁者のスターリンに近づいている。
ソ連のジューコフ元帥は回想録で、数多くの兵士の命を無駄にした責任がスターリンにあると非難した。プーチン氏も、あらゆる人命に対して無関心な様子だ。

プーチン氏は侵攻前、ウクライナが存在する権利はないという意味の発言をした。しかし戦闘が1カ月以上続いてなお、プーチン氏はウクライナの政権を崩壊させるなど当初の目的を達成していない。
追い詰められたプーチン氏は、真実と虚構の混ざった不満を抱え込み、危険だ。国際社会はある意味で、プーチン氏がスターリンともう一つの共通点を持つことを期待するしかない。無慈悲で常軌を逸しているが、究極的には合理的な人物であることだ。

・・・スターリンが「合理的な人物」かどうかはさておき、ウクライナ戦争においては現状、とにかくプーチンが諸々の「潮時」を了解して「合理的」に行動してくれることを期待するしかない感じではある。

気が付けばスターリン化していた独裁的権力者プーチン。ただスターリンの共産党(あるいはヒトラーのナチス党)のような、強固な組織的基盤が無いように見えるにも係わらず、プーチンが何年もかけて独裁的権力の強化を図ることができたのは、ちょっと不思議な気がする。

独裁的権力者プーチンは大国復活を目指しているようだが、その念頭にあるのはロシア帝国なのかソ連なのか。どちらにしても、時代錯誤というほかは無いのだが、プーチンがスターリン化するのではなく、西欧かぶれのピョートル大帝を真似してくれれば、世界は平和だったろうに。(ため息)

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2022年3月21日 (月)

「冷戦後」の終わり?

本日付日経新聞コラム記事(パラダイム危機の時代)から以下にメモする。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻からもうすぐ1カ月。冷戦後の国際秩序のパラダイム(枠組み)が大きく揺らぎ始めたのではないかという危機感を、多くの人が抱き始めている。

「マクドナルドがある国と国では戦争は起きない」。冷戦後に旧ソ連・東欧が民主化・市場化し、自由にヒト、モノ、カネが動くグローバル化が進み世界経済が一つになったので、もう大きな戦争は起こらないという説だ。90年1月にモスクワに第1号店を開き、冷戦終結の象徴となったマクドナルド。同社も今回のウクライナ危機で、ロシア国内全店の一時休業に追い込まれた。30年前の冷戦終結と軌を一にするかのように進んだ経済のグローバル化。ロシアのウクライナ侵攻は冷戦後の国際秩序を揺さぶると同時に、グローバル経済に再考を迫る。

経済政策、とりわけ金融政策はパラダイムの揺らぎに直面している。冷戦後に金融のグローバル化が進むとともに、物価情勢は1970~80年代のインフレから、ディスインフレーション(物価鎮静化)の時代に入り、21世紀に入ると金融政策はインフレ目標、フォワードガイダンス(先行き指針)など経済学者らが合議で進める枠組みが優勢になったが、その有効性が今問われ始めている。

米連邦準備理事会(FRB)は16日、2018年12月以来3年3カ月ぶりの利上げに踏み切り、インフレ退治に本腰を入れ始めた。足元のインフレは2年に及ぶコロナ禍からの需要の急回復と、サプライチェーンの途絶による供給制約という需要・供給双方の特殊要因と解釈されてきた。だが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油、希少金属、穀物など国際商品の価格上昇や供給不安も重なり、国際秩序の揺らぎと同調する複合危機の様相を強めている。

コロナ禍からウクライナ危機。この2年間で世界の大変動を目撃してきた我々は、これまでは当たり前と信じていた枠組みの揺れを感じている。それは歴史が逆流していくような感覚にも似る。秩序の揺れがいずれ収拾に向かうのか、あるいは中長期の混乱の時代に突入するのか。

・・・ロシアの侵略は、この30年間の「冷戦後」の終わりを告げる出来事なのか。これにより歴史のトレンドは再び大きく変わるのか。あるいは、長期的なトレンドは変わらない中での、短期的な「反動」に止まるのか。しかし後者の場合でも、「冷戦後」の枠組みの修正は必至だろう。いずれにせよ我々が一定の認識を得るまでには、いましばらく時間を要すると思われる。

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