力石の死とジョーの「死」
12日に福岡・宗像市で行われたプロボクシングスーパーバンタム級10回戦で、サーカイ・ジョッキージム選手(タイ)がTKO負け後に急性硬膜下血腫のため死去した。19歳だった。(スポーツ報知)
「ボクシング試合後の急死」といえば、すぐ思い出されるのが力石徹。名作マンガ「あしたのジョー」の主人公・矢吹丈のライバルだ。フィクションの世界の人物ながら、その死が世間に与えた衝撃は大きく、「葬儀」まで執り行われた事はよく知られている。死因については、作中で「過酷な減量、ジョーが放ったテンプルへの一撃、ダウンの際ロープで後頭部を強打したことによる脳内出血」と説明されているのだが、「死体の巨匠」上野正彦先生の分析によれば、「脳内出血」ではなく、脳外の血腫による死亡である。上野先生の『死体を科学する』(アスキー新書、2008年)からメモ。
力石の死因が脳内出血とは考えがたい。一般に、脳内出血は外傷によっては引き起こされないものであり、この場合の力石の死に方には当てはまらない。
では、力石の死因はなんだったのか。
ここで浮上してくるのが、脳硬膜下血腫という症状である。力石は、脳「内」ではなく、脳「外」の出血で倒れたのではないか。
硬膜下出血の特徴は、外傷を負った後も意識状態は良好なまま、しばらくは活動できる点である。脳自体に傷がついているわけではないから、正常に活動ができるのだ。
ところが、時間が経つにつれ、硬膜と脳の間に血液がたまってくる。この血液が50mlを超えると脳が圧迫されはじめ、足もとがおぼつかなくなり、ちょうど酒に酔ったときのように千鳥足になる。さらに時間が経過し、血液が150mlを超えると、脳は圧迫の極限に達する。脳は豆腐のような柔軟性のあるものだから、圧迫されれば死に至るのである。
・・・として上野先生は、力石の死は硬膜下出血が主因と推測する。今回起きたタイ人ボクサーの不幸は、この説を裏付けているように思われる。
ついでながら、真っ白に燃え尽きた矢吹丈は生きている、と同じ本で上野先生は書いている。以下にメモ。
人が意識を失った場合、身体のあらゆる筋肉が弛緩する。したがって、ジョーが死んでいるとするならば、この状態で椅子に座っていることができるはずはないのだ。腰は椅子からずり落ち、腕などをロープに引っかけてでもおかないかぎり、リングに倒れ伏してしまうだろう。同じように顔面の筋肉もゆるむので、このように柔和な笑顔を浮かべていることも不可能だ。ジョーは生きて、しかも意識を正常に保っているからこそ、椅子に座り、笑顔を浮かべていることができるのである。
・・・ジョーは生きている。ラストシーンのジョーは、自らの「ボクシング人生」を燃やし尽くして満足している、ということのようです。
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