映画『アンノウン・ソルジャー』
フィンランドの戦争映画『アンノウン・ソルジャー』。2019年の日本公開作品だが、昨年の夏、新宿の映画館で「戦争映画特集」の一本として、3時間のディレクターズ・カット版が公開された。ウクライナ戦争で、ロシアとフィンランドの関係にも注目が集まっていたこともあり、自分も新宿まで観に行った。先頃この3時間版がDVD化されていたことを知り、もう一度観てみたという次第。
1939年11月末から1940年3月まで、フィンランドは侵攻してきたソ連と戦った。これが「冬戦争」。次に独ソ戦の開始と共に1941年7月、フィンランドは領土奪還のため再びソ連と戦争を始める。これが、映画で描かれる「継続戦争」で、1944年9月まで続く。当時フィンランドは、ナチスドイツと組むしかなかった。「敵の敵は味方」でやってきたのが、ヨーロッパ。地続きで多くの国が隣り合わせになっている国々の意識は、島国日本とは当然のように違う。
アンノウン・ソルジャー、つまり無名戦士の日常生活は戦闘が中心だ。戦闘準備、戦地に向けて行軍、戦闘、休息、そしてまた行軍。森の中を歩き、山を越え、川を渡り、原野を進む。たまに一時帰休はあるにしても、一度家を離れたら、簡単には戻れないハードな生活だ。
フィンランドは森の国。森の中の戦闘は、敵の居場所が見えにくいだけに、恐怖は倍増し、勇気も一層必要になる。主要人物は何人かいるが、主人公と言える古参兵ロッカ伍長は、上官から「勇敢だな」と称えられると、「俺たちはただ、死にたくないから敵を殺してるだけです」と答える。若い新兵にはこうも言う。「人でなく敵を撃つ。賢い連中は言ってる、❝敵は人間じゃない❞って。割り切って敵を殺せ」と。まさに人ではなく、敵を殺すのだと思わなければ、戦争などやれないだろう。ロッカは、自分の振る舞いを上官たちに咎められても、「お偉方のために戦ってない。家族のために戦ってる」と言い返し、最後の場面では銃弾の飛び交う中、負傷した相棒を背負って川を渡るなど、男気のある人物として描かれている。
映画の後半はフィンランド軍の撤退戦。戦果も無いまま負傷者が増えるばかりの撤退戦の行軍は悲惨だ。「体に悪いからタバコはやめろ」と人に言っていたロッカも、撤退戦の過酷さからなのか、たびたびタバコを口にする。上官が現場の状況を無視した「死守」命令を叫んでも、疲れ切って行軍する兵士たちからは「何言ってんだコイツ」的ムードが漂う。負け戦の軍隊が惨めで気違いじみているのは、洋の東西を問わないようだ。
映画の原作小説は、フィンランドでは知らない人はいない作品だという。どのような形であれ、戦争に係る国民的記憶は残しておかなければならないと、つくづく思う。
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