ドイツにおける「普遍」と「固有」
昨年11月にサントリー学芸賞に選ばれた、今野元・愛知県立大教授の『ドイツ・ナショナリズム』(中公新書)。中日新聞1月18日付紹介記事からメモする。
ドイツ・ナショナリズムとは何か。今野さんは「ドイツへの帰属意識を前提に、ドイツ的なものの維持・発展を望む思想」と定義づける。十九世紀に成立したドイツ帝国や、第二次世界大戦へと突き進んだナチス・ドイツに限らない。古代から現代にかけて常に、西欧の価値観に基づく「普遍」と、民族の伝統や文化を重視した「固有」という二つの潮流のせめぎ合いがあったと考える。
例えば近世のドイツを支配した神聖ローマ帝国には、キリスト教の価値の担い手がドイツだという“普遍”への志向があった一方で、選挙で君主を選ぶのがドイツらしさだという“固有”への意識があった。
戦後、東西分裂をへて再統一されたドイツは今や、脱原発をはじめとする環境保護政策や難民の受け入れをめぐり、国際社会で強いリーダーシップを発揮している。
「現在のドイツは“普遍”の時代にあるといっていい」と今野さん。ただ、普遍的な価値を重視するあまりに異質な思想や意見を許さない「道徳主義」が強まり、その反動で、君主制の称揚などナチス以前の伝統への回帰もみられると分析する。
ドイツのナショナリズムは今後、どう振れていくのだろうか。今野さんは「戦争を機に、ドイツでは妥協を許さない道徳主義が強まり、軍事的にも欧州をけん引しようとする方向に進むのではないか。社会の緊張感は高まり、分断も深まるかもしれない」と話す。
・・・「普遍」と「固有」のせめぎ合いは、近代日本を説明する枠組みとして使うことも可能だろう。「西欧」、つまりおそらくはイギリスとフランスから生まれた「普遍」的な価値観に対して、世界の他の大部分の国が「固有」の価値観を持って対峙したというのが、近代以降の状況であるように思う。
ところでドイツは戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与に逡巡している。ここで「道徳主義」の強まりに押されて、ウクライナに戦車を送り込むのは、傍から見ていてもさすがにリスクが高い。どうするドイツ?
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