ウクライナ戦争、捩じれた「独ソ戦」
新しく出たムック『独ソ戦のすべて』(晋遊舎発行)から、メモしてみる。
第二次世界大戦、ことに欧州での戦争に興味をもつ人にとっては、この(ロシア・ウクライナ)戦争はある種の感慨を抱かせるものであった。キエフ(キーウ)やハリコフ(ハルキウ)、サポロジェ(ザポリージャ)といった地名は、第二次世界大戦や近現代史の愛好家にとって、歴史上の地名であって、現代の紛争地帯の地名として再浮上するとは想像していなかったからだ。
・・・まさに、かつてT34戦車やタイガー戦車などのプラモデルを作り、「ヨーロッパの解放」などの映画を観て20世紀の「独ソ戦」を学んだ世代にとって、21世紀にハリコフやキエフが再び戦場になるという現実は、既視感と違和感を同時に覚えるものだ。しかも戦争当事者はお互いに旧ソ連を構成していた国なのだから、この事態をどう理解していいのやらである。
このムックを読んでいると、ロシア・ウクライナ戦争は裏返しのというか、捩じれた「独ソ戦」というイメージが浮かんでくる。ロシアのプーチン大統領の頭の中にあるのは、ソ連が侵略者ナチス・ドイツを撃退した「大祖国戦争」だと思える。現在の敵は「ナチス」政権に支配されたウクライナである。そしてロシア・ベラルーシ・ウクライナは「一体」であると、プーチンは見なしている。であれば、「ナチス」政権に浸食されたロシアの「領土」を「解放」(奪還)し、ウクライナの「ナチス」政権を支援する西側NATO諸国と対抗し続けることが、ロシアの正義であると、プーチンは考えているのかもしれない。
かつてのナチス・ドイツの侵略のベースには、優秀なゲルマン民族が劣等民族スラブ人を支配してもよいという差別思考があったと思われる。プーチンの戦争にも、ウクライナ人に対する差別意識がないとは言えないだろう。そんな印象からも、ロシア・ウクライナ戦争は捩じれた独ソ戦、という思いが強くなる。何をどう言ってみても、現実に侵略したのはロシアなのだから、プーチンはヒトラーと同類だと単純に言えるだろう。
戦争初期の段階で、ロシアは首都キーウの短期攻略に失敗。ウクライナ第2の都市ハルキウでも頑強な抵抗に遭い撤退。東部ドンバス地方の完全制圧も達成していない。ここからさらに人員を投入して戦争を継続しても、ロシアは4州「併合」以上の「成果」を手にすることは難しいだろう。ロシアの戦う動機は弱まりつつある一方、領土奪還を目指すウクライナは戦いを止める理由はない。という非対称の状態で今のところ、停戦のきっかけすら見出せない憂うべき状況だ。
| 固定リンク