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2022年5月30日 (月)

『映画を早送りで観る人たち』

先日、映画会社や放送会社が、「ファスト映画」投稿者に損害賠償を求めるというニュースを聞いた時、ファスト映画を作る人が訴えられるということは、自分の予想以上に、ファスト映画を見る人は沢山いるのだなと、改めて了解した。ので、「ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形」との副題を持つ『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史・著、光文社新書)を読んでみた。

昨今、画像配信される映画やドラマなどを「倍速」や「10秒飛ばし」で観る、あるいは先に結末を確かめてから観る(ネタバレ)という視聴方法が、若者を中心に広がっているという。この「鑑賞法」に対する違和感から、著者(1974年生まれ)は出発。データや取材を基に考察をまとめたのが、この本である。

早送りによる「鑑賞法」が広がっている背景だが、まず膨大な数の作品が供給されているという状況がある。いわゆるサブスクのサービスが浸透しており、あれ観たこれ観たという話題にも付いていきたい。が、とにかく膨大な数の作品を観る時間がない。その解決法が、倍速視聴による「時短」化である。

2つめはコストパフォーマンス(コスパ)の追求。倍速視聴者は時間コスパ、言い換えるとタイムパフォーマンスを求める。これを若者は「タイパ」あるいは「タムパ」と呼ぶ。彼らはタイパ至上主義者であり、「タイパが悪い」ことを極度に嫌う。倍速やネタバレは、作品が面白いかどうか分からないストレスを軽減し、無駄な視聴に時間を使ってしまうリスクを避けるための手段なのだ。

加えて、最近は何でもセリフで説明する作品が多く、セリフのある部分だけでも内容は把握できると考えて、飛ばして観る視聴者も多くなっているようだ。

こうなると「作品鑑賞」ではなく、「コンテンツ消費」(あるいは「情報収集」)である、と著者は考える。何しろ今はSNS常時接続の時代だ。誰もがLINEから逃げられない。常にレスを求められる。この状況に対応するため、人はコンテンツを効率的に消費せざるをえないのである。

とりわけ、いわゆるZ世代と呼ばれる若者層中心に「コスパの悪さ」を恐れる傾向は強い。そのような効率性を求める価値観は、どのような環境で育まれたのか。ひとつめは、キャリア教育の圧力だ。今は、大学在学中から綿密なライフプランやキャリアプランを組み立てろ、と迫られる。昔のように、とにかくどこか会社に入ってからプランを考える、という時代ではない。もうひとつが、SNSによって同世代の活躍が否応なく目に入ること。直接知らない人の活躍でも、見てしまうと自分も早く何事かを為したいと、焦る気持ちになってしまう。らしい。

キャリア教育の圧力と、同世代活躍者の見える化を横目に、マイペースで行こうとしても、今の大学生生活は多忙であるようだ。大学は出席に厳しく、仕送りは減少傾向にある中バイトにも行くし、LINEのコミュニケーションにも勤しむ。ということでほぼ必然的に、若者は膨大なコンテンツを倍速処理で消費する、あるいはチェックすることに追われるのである。

自分も年配の人間なので、倍速視聴には違和感を持つ者であるが、この本の、倍速視聴という行動の直接的な分析から、倍速視聴という行動を生み出した社会的背景や若者の価値観にも展開していく説明には、充分納得させられた。

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