アトムよりも鉄人28号
今月の日経新聞「私の履歴書」執筆者はマンガ家の里中満智子。本日第4回の内容から以下にメモ。
7歳になるころ、書店で、好きな雑誌を選んでよいと言われたので、何冊かパラパラめくっていたら、創刊されたばかりの「なかよし」に載っていた「とんから谷物語」が目に入った。手塚治虫先生の連載である。ダム建設で故郷を追われる生き物たちを描いた漫画で、環境問題を扱った先進的な作品だ。当時の私には、美しい絵と物語だけでも十分に魅力的だった。
小学2年になると、貸本屋に通い始めた。ほぼ毎日雑誌か単行本を借りていた。
「あしたのジョー」のちばてつや先生や、「仮面ライダー」「サイボーグ009」などの石森(後に石ノ森に改名)章太郎先生も、はじめは少女漫画を描いておられ、私はリアルタイムで読んでいる。
ことに熱中したのは「鉄腕アトム」だ。後年、アニメでも大ヒットする手塚作品だが、私の記憶では連載当時、同級生男子には横山光輝先生の「鉄人28号」の方が人気があった。少年の操縦で巨大ロボットが敵を倒す痛快な物語に比べて、アトムは、くよくよ悩む。敵がなぜ悪者になったかを考え、背景にある人間の黒い欲望に気づく。敵に負けたり、人間にいじめられたりすることもある。
そんな姿に感情移入して「今月のアトム、泣けたよね~」と同級生男子に言っては、けげんな顔をされていた。彼らには、アトムは暗すぎたのだ。けれど私は「こんなとき、アトムならどうするか」と考えて行動を決めるほど思い入れが強かった。
・・・当時の男の子の鉄人人気は、自分も大いに頷けるものがある。自分も、アトムより鉄人の方が好きだった。その理由を考えたことはなかったが、里中さんの文を読んで、確かにアトムは暗いというか、少々鬱陶しい印象はあったかもしれないと思う。確かアトムに「ロミオとジュリエット」を下敷きにした話があって、それを子供の頃読んだ時、結末部分で何とも得体の知れない気持ち悪さを感じたことを覚えている。その一方で、「地上最大のロボット」(プルートウ!)は、わくわくぞくぞくしながら読んでいた。実際、人気作品だったらしいので、たぶん男の子は、この話が大好きだったんじゃないだろうか。
里中さんが熱中したことを考えると、確かにアトムには少女漫画テイストが結構含まれていたのかも、と思ったりする。
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