「新しい資本主義」は、古い
本日付日経新聞市況面コラム「大機小機」(新しい資本主義、歴史の視点を)から以下にメモする。
岸田文雄首相の肝いりで誕生した「新しい資本主義実現会議」。「新しい資本主義」と大上段に構えたのは、1980年代以降「新自由主義」のまん延とともに格差が拡大したから「市場任せ」を変え、官民が連携して新しい経済をつくる触れ込みだった。格差をどう抑えるか。この問題は今に始まったわけではなく、資本主義の歴史とともに古い。
産業革命によって英国で誕生した資本主義は、もともと大格差社会だった。これを致命的なシステム障害とみなし社会主義社会への移行を主張したのが、ご存じマルクスとエンゲルスだ。資本主義のその後の歩みに大きな影響を与えた。
19世紀末、資本主義のお膝元の英国で議論を主導したのは「フェビアン社会主義」である。経済体制としては市場と民間企業を核とする資本主義でよいが、自由放任の下では格差が大きくなりすぎるから、それを適宜修正する。
累進的な税率をもつ所得税などもあるが、なんと言っても柱になるのは公的年金、医療保険、生活保護などから成る社会保障制度である。第2次世界大戦中に英国政府がまとめた「ベバレッジ報告」は、「ゆりかごから墓場まで」のキャッチフレーズで知られる。これが戦後の欧州、日本など先進国の社会保障制度の基盤となった。
言うまでもなく戦後の先進国経済の歩みは一様でなく、1980年代以降世界的に格差は拡大した。ただしその原因は国により異なる。わが国では自民党・民主党時代を問わず、欧州型の社会保障制度を維持することに異論はないから、「新自由主義」が大きな影響力をもったことはない。
・・・ということなので、首相が「新自由主義政策からの転換」を唱えても、何だかトンチンカンな感じがするのですね。困ったものです。
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