新しいステークホルダー資本主義
本日付日経新聞「経済教室 エコノミクストレンド」(執筆者は柳川範之・東大教授)から、以下にメモする。
社会の課題と資本主義というと、今までは資本主義が社会的な課題を生み出しているのだ、と考えられがちだった。しかし、実は、社会課題を解決・軽減していく、それに役立つ資本主義も十分に成立し得る。
近年高まっているのは、環境問題や格差の拡大といった大きな社会課題への問題意識だが、ここで見落とされがちなのは、その裏側で、課題の実態を把握する技術が大きく進歩しているという事実だ。つまり、(デジタルデータを活用した)技術革新によって、社会課題の「見える化」の精度が格段にあがったのが、今の資本主義の特徴なのだ。課題解決のプロセスをデータとしてしっかり把握できれば、より社会課題の解決に資するような企業が収益をあげられる可能性も、原理的には高まるはずだ。
様々な社会課題を解決しようとすると、社会も組織もどうしても複数目標の達成を迫られることになる。しかし、そうなると、どの目標をどの程度重視して行動すべきかという問題が発生する。場合によっては、あちらもこちらも達成しようとして、結果、何も成果が上がらないことにもなりかねない。これらの問題を回避するためには、成果達成のプロセスを明確に評価できるようにするとともに、複数目標のウエートをできるだけ明確にすることが必要だ。
この点は、近年活発に議論されている、株主のことだけを考えるのではなく、従業員や地域住民など、より多様な利害関係者(ステークホルダー)を重視するステークホルダー資本主義においても重要な含意をもつ。
ステークホルダーを重視した資本主義が注目されているのは、社会課題が大きくなってきたという要因も大きいが、各ステークホルダーの利害をきちんと把握して、マルチタスク問題をある程度コントロールする仕組みがコーポレートガバナンス(企業統治)として考えられるようになったから、というのがもう一つの理由だからだ。言い換えると、きちんとしたデータによる目標とプロセスの管理やガバナンスの設計なしに、漠然とした形で、様々なステークホルダーの利害を考えていたのでは、どの目標も中途半端なものになりかねない。この点が新しいステークホルダー資本主義の大きなポイントであり、日本が伝統的に行ってきた経営と異なる点でもあろう。
・・・柳川先生は、岸田政権肝煎りの「新しい資本主義実現会議」のメンバー。先生の提言を政策に十分に落とし込めれば、「新しい資本主義」と呼ぶのにふさわしい経済システムの姿を提示できるように思う。しかし現状で政権から打ち出される経済対策は、従来の政策の焼き直しに止まっている印象。これでは何が新しいのか意味不明、ということで「新しい資本主義」は看板倒れ!だなあ。
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