大河ドラマ、90年代に「商品化」
『大河ドラマの黄金時代』(春日太一・著、NHK出版新書)は、1963年のNHK大河ドラマ第1作『花の生涯』から91年の『太平記』まで、制作の舞台裏を多くの関係者の証言により描き出す。同書のエピローグから以下にメモする。
NHKは1985年、新たに100パーセント出資による外郭の株式会社・NHKエンタープライズを設立、ここに制作を外注することで「番組の商品化」を図ろうとします。そして、89年にNHKの会長となった島桂次は『太平記』の放送途中に大河ドラマをNHKエンタープライズの制作にすることを決定しました。
大きな変化が訪れるのは93年です。「一年に一作」という放送形態の変更です。そして、結果的にこの変革は失敗に終わります。大河ドラマは95年の『八代将軍 吉宗』で再び本体制作に戻り、編成も「一年に一作」の従来どおりに回帰、以後それが現在まで続きます。
ただ、この時も島の敷いた路線が一つ残ることになります。それは「作品の商品化」です。NHKのドラマの代表は大河ドラマ。これをコンテンツとして利用し、もっと国際的に売ったり、メディアミックスを図る。「その利益の一部をNHK本体に還元し、受信料を節約する」――それが島の狙いでした。
島の敷いた基本方針以降、物語の舞台となる県や市、撮影が行われる自治体、そこに関連する企業と、大河ドラマ作品を結びつけたビジネスが本格化していきました。
つまり、大河ドラマは単なる「作品」としてだけではなく「商品」としての側面も意識されるようになったということです。そうなると、大河ドラマはNHKの組織や外郭企業も含めた全体の命運を握る、大プロジェクトになります。かつてのように個々のプロデューサーやディレクターの「これを題材に作りたい」という想いだけで企画が決まるという規模ではなくなってしまったのです。
・・・上記のような認識から、著者は『太平記』までを、大河ドラマが「作品」であった時代、すなわち「黄金時代」としているわけだ。
思うに、「作品」から「商品」への変化、あるいは「作品」における「商品」的側面の肥大化は、大河ドラマに限らず、資本主義社会における殆どの文化的活動に避けられない運命かもしれない。マンガでもアニメでも、特撮映画でも、ロック音楽でも、やっぱり勃興期から発展期における「作品」に面白いものが多いと思う。しかし、その後ジャンルとして確立し「商品化」されると、つまらないものが多くなってくるという感じだ。
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