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2020年10月11日 (日)

ナチスの「T4作戦」

先日、ドイツ映画「ある画家の数奇な運命」を観た。ナチス時代に少年期を過ごし、東ドイツそして西ドイツで自らの芸術を追求する若者のドラマを描く、上映時間3時間を超える作品。まず最初の1時間が重い。ナチスの障害者「安楽死」政策が描かれるからだ。子供の頃の主人公に影響を与えた若く美しい叔母が精神を病んだ結果、この政策の犠牲者になる。

ナチスの犯罪といえば条件反射的にホロコーストを思い浮かべるが、ユダヤ人だけでなく障害者も虐殺していた。ということを自分は、2015年のNHK番組で知った。ナチスドイツは戦争中、「T4作戦」(ベルリン市内のティアガルテン4番地に作戦本部があった)と呼ばれる障害者安楽死計画を実行していた。以下は、NHK番組で案内役を務めていた藤井克徳さんの著作『わたしで最後にしてーナチスの障害者虐殺と優生思想』(2018年、合同出版)を参考にする。

T4作戦実行による障害者の殺害が始まったのは1940年1月。ドイツ国内の6つの施設のガス室に、障害者たちが次々に送り込まれた。作戦は1941年8月に表向きは終了。キリスト教会からの抗議があったことなどによる。しかし実際には、その後も「作戦」は続行していた。中央からの指令は出されなくなったが、地方自治体が命令を出し、戦争が終わるまで殺害は実行されていた。犠牲者数は41年8月までに7万人、それ以降終戦まで13万人、合計で少なくとも20万人という。

優生思想に基づき「生きる価値のない命」を抹殺する。ナチスのT4作戦は、まさしくユダヤ人大虐殺のリハーサルだった。T4作戦には、医療関係者も自主的かつ積極的に加担したという。あのアイヒマンのように、自らの職務として進んで組織的殺人に取り組んでいたのだろうか。

自分はアウシュビッツを訪ねてみたこともある。けれども結局のところ、ユダヤ人の虐殺がなぜ起きたのか、日本人には分からないという感覚が残っている。しかし障害者の虐殺については「同胞」を殺すことでもあり、ひどく不気味なものを感じる。これは決して他人事とは言えない。優生思想の厄介なところは、論理的には正しく見えることではないか。完全に否定するのは難しいような気がする。しかしながら、だからといって優生思想を殺人実行につなげるのは飛躍があると感じる。いかなる思想も、殺人を正当化することはできない。

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