日本の中世社会に学ぶ
「文藝春秋」4月号に、出口治明氏と呉座勇一氏の対談(「なぜ?」を問わない歴史教育の愚)が載っている。出口氏はビジネスマン出身の大学学長、世界史関係の著書多数。呉座氏は歴史学者、ベストセラー『応仁の乱』の著者。以下に対談記事からメモする。
出口:ドイツの宰相・ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉は歴史を学ぶ意義を象徴していると思います。
僕が歴史を学ぶ意義がよくわかると思うのは、呉座さんが研究されている中世です。中世はめちゃくちゃ面白い時代ですね。
呉座:中世は下克上、すなわち実力主義の時代です。今こそ、ダイナミズムに溢れた中世社会の姿を知ってほしい。
私たちは「日本人は、こうあるべきだ」という固定的な自画像に囚われがちです。例えば、「日本人は閉鎖的な島国の中で秩序を重んじて生きてきた保守的な民族だ」と。でも、中世社会を見ると全然そんなことはありません。
歴史を学び、現代の常識が中世の非常識であることを知る。そうやって歴史という「他者」に出会うことではじめて、現代社会の価値観や常識を相対化できる。出口さんがおっしゃったように、まさに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というわけです。
・・・歴史学はヨーロッパで、近代国家の自己正当化のストーリーとして生まれた。そこには、古代から中世そして近代へと時代は進歩する、そしてあらゆる国はこのコースを辿って近代国家となる、という暗黙の前提があった。しかし今では、ヨーロッパ由来の「進歩」や「普遍」の概念に疑いの目が向けられており、この状況の中で中世を学ぶことは、近現代の価値観を相対化する視点を獲得することにもつながる。それはポストモダン的感覚からの近代批判と、シンクロする場面もあるように思う。
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