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2019年4月24日 (水)

『82年生まれ、キム・ジヨン』

韓国で100万部の大ベストセラーという『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳、筑摩書房)が、日本でも多くの女性たちの共感を集めている模様。「フェミニズム小説」との評価もある作品だが、ストーリーが淡々と語られていくなかで、主人公であるキム・ジヨンが一人の小説的人物としてリアルに立ち現れてくるという感じは余りしない。全体の叙述は精神科医のカルテという体裁を取っており、文中には各種データの出典を示す注釈も付けられるなど、様々なエピソードが集められたノンフィクション、あるいは社会学的なレポートのような印象もある。キム・ジヨンという名前は、82年生まれの韓国女性に最も多い名前であるそうだが、主人公はまさに現代の韓国社会で生きる女性たちの様々な経験を最大公約数的にまとめたモデルとしての人物像であるように思われた。 

それにしても韓国社会において、儒教的伝統に由来する男尊女卑の価値観は非常に根深いものがある、と感じる。主人公は学校や会社の中で、あるいは主婦という立場になってからも、社会の中で女性に向けられる視線の冷たさ、女性がぞんざいに扱われることのストレスを感じ続け、ついには心身の不調に陥ってしまう。主人公に起きる「憑依現象」から、物語の「書き手」である精神科医が疑うのは解離性障害(多重人格障害)だが、これは、つらい体験から自分を切り離そうとするために起こる一種の防衛反応とされる。ただ諸々の「差別的」状況の過酷さが主人公の心の病につながる因果関係を、読者がリアルに感じられるかというと、そこまで充分に小説的に描かれているとは思えない。

小説としての評価はともかく、「キム・ジヨン」は韓国社会の今を考える材料としては興味深い作品だと思う。「キム・ジヨン」の話を読むと、韓国社会の置かれている状況はどういうものか気になってくる。試しに少し検索してみると、若者が恋愛、結婚、出産を諦める「三放」、加えて人間関係とマイホームを諦める「五放」、更に夢と就職を諦める「七放」とか、出生率1割れの0.98、あるいは「Me too」運動の盛り上がりなど、社会が大きな困難に直面していると思われる話ばかり目に付く。これら韓国の状況と課題は、多かれ少なかれ日本も共有していると見てよいだろう。つまり「キム・ジヨン」を読めば、自ずと日本の状況についても考えざるを得なくなる、ということだ。

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