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2016年8月 9日 (火)

「株主主権論」と「格差拡大」

本日付日経新聞「経済教室」、岩井克人先生の寄稿(「株主主権論」の誤りを正せ)からメモする。

米国の共和党大会で不動産王ドナルド・トランプ氏が大統領候補に選出され、英国の国民投票では欧州連合(EU)離脱派が過半数を制した。
この2つの出来事には多くの共通点がある。移民への反感、自由貿易への抵抗、金融自由化への反発。だがこうした反グローバル主義の底流にあるのは「格差」の拡大だ。グローバル化の中で巨万の富を得ているエリート層に対して、残りの非エリート層が異議申し立てをしているのだ。

格差批判は世界的な広がりを持つ。だが私が注目するのは、それが米英で最も先鋭的な形で表れたことである。両国での格差の急拡大こそ、米英型資本主義が旗印にしてきた「株主主権論」の破綻を意味するからにほかならない。

株主主権論とは、会社は株主のものであり、経営者は株主の代理人として、株主資本の収益率を最大化すべしという主張だ。だが株主主権論の旗印の下で実際に大きく上昇したのは、資本所得ではなく、経営者の報酬だった。

米国では最高経営責任者(CEO)と平均的労働者の報酬の比率は60年代には25倍だったのが、近年では350倍以上になっている。150億円という天文学的な報酬を稼ぐCEOもいる。経営者報酬の高騰こそ、米国での格差拡大の最大の原因だ。

なぜこうした逆説が生まれたのか。それは株主主権論が理論上の誤りだからだ。
株主主権論は、会社の経営者には会社に対する「忠実義務」という倫理的義務が課されていることに目を塞いでいる。会社は法人である。法律上の人でしかない会社を現実に人として動かすには、会社に代わって決定を下し契約を結ぶ生身の人が不可欠だ。それが経営者なのだ。もし経営者に自己利益の追求を許すと、会社の名の下に自分を利する人事決定や報酬契約を行うことが可能となる。それを抑制するのが忠実義務である。

ところが株主主権論は、経営者は株主の代理人だと称して、この倫理的義務を株式オプションなどの経済インセンティブ(誘因)に置き換えてしまった。まさにそれは、自己利益追求への招待状だ。そして実際、米英の経営者は自らの報酬を高騰させ始めた。その帰結が、トランプ旋風とEU離脱派勝利なのだ。

・・・1980年代末の社会主義の消滅以降、経済のグローバル化と共に、新自由主義あるいは株主資本主義が蔓延した。しかし今や冷戦終了後の時代の流れは、確かに曲がり角に来ていると思われる。その感覚から、「冷戦後」は終わった、という認識を導き出しても良いだろう。

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