先進国労働者の「反乱」
EU離脱を決めたイギリスの国民投票は、「現代は先進国リスクの時代である」ことを示した――昨日28日付日経新聞「経済教室」(EUは生き残れるか)、遠藤乾・北海道大学教授の寄稿からメモ。
英国の欧州連合(EU)離脱は世界史的な意味を持つ。
勝利した離脱派は三つの主張の合成であった。一つ目は主権的な自決意識。様々な決定が欧州の首都ブリュッセルでなされることに対して「自国のことは自国で決める」という民主主義的な精神の発露である。
二つ目は移民とそれを可能にするEUへの反感である。
三つ目はグローバル化や欧州統合に置き去りにされ、実質所得が伸び悩み、雇用が脅かされたという労働者の意識である。移民は再びそのシンボルとされた。本来は、移民は英国民と競合しない産業で働き、経済はそれで潤っていたのだが、そうした数字は反エリート主義とも結びつき、もはや意味をなさない。
グローバル化で途上国・新興国の労働者と先進国の上位所得者1%が潤う一方、先進国の労働者が相対的に沈む。
近年の政治的動乱の震源地は、この先進国の労働者だ。穏健中道政党は、グローバル化に連なるエリートとみなされ、この層をすくいとれない。それを左右両極から挟撃するのが新興政治勢力である。
米国で共和党を右から乗っ取ったトランプ現象、左からクリントン候補を追撃したサンダース現象。仏社会党も支持者を極右の国民戦線に奪われている。EUにそっぽを向いた英労働党支持者は、今や英国独立党の草刈り場となった。みなグローバル化や欧州統合により、相対的に所得が落ち込んだ層からの反乱だ。
・・・グローバル化のもたらす利益の多くは、政治経済のリーダーやエリート層が取り込み、労働者の大多数は利益とは無縁。グローバル化する経済がひたすら効率化を追求する道の行き着く先は、結局のところ格差の拡大であり、果てしない競争の中で中間層は疲弊している。エリート層の唱える、グローバル化に適合して生き残れ、というタテマエにはもはや付いていけないと、先進国労働者は遂に「反乱」の狼煙を上げた。冷戦後、グローバル経済、新自由主義・・・呼び方は様々だが、1980年代以降の時代の流れは、まず2008年リーマン・ショック、そして今年2016年のブレグジットで大きな曲がり角を迎えたような気がする。
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