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2012年8月19日 (日)

『おもかげ復元師』

17日夜のNHKで「復元納棺師」さんの番組を見た翌日、書店に行くとその納棺師、笹原留似子さんの著書2冊が山積みになっていたので、まず絵本を開いて立ち読み開始。涙が本に落ちないように気をつけながら読了(苦笑)。で、もう一冊のエッセイ『おもかげ復元師』(ポプラ社)を購入。

映画「おくりびと」で知られるようになった納棺師という職業。亡くなった方の遺体を清め、表情を整えて棺に納める。笹原さんは、損傷の激しい遺体でも生前の表情を復元する技術に長けているとのこと。もともと岩手県北上市でお仕事をしていたが、今回の震災・大津波で亡くなった方の復元にボランティアで取り組んだ。

笹原さんの手により復元された遺体に対面した家族が、思わず故人に声をかけ涙を流し悲しみを露わにしていく有り様は、どのエピソードにも心を揺り動かされる。まさに深く濃い浄化の時間がそこにある。

笹原さんの復元技術は驚異的なものらしい。大人には遺体が「元に戻った」「寝ているみたいだ」と驚かれ、子供たちから「魔法使いなの?」と尋ねられる。「こんな顔じゃない」と言われることは一度もなかったそうだ。とにかく完璧ということなんだろう。

人間の心は、弱い。直視できない現実というものがある。残酷すぎる現実を、少なくとも「悲劇」として心の受け入れ可能なレベルにまで修正する。そんな笹原さんの「魔法」の内実は、強い意志に支えられた根気の要る作業である。

「復元でいちばん大事なこと。それは、自分に負けないことです。勇気と根性です。そして、この人は生きていたのだ、とあらためて理解することです」と笹原さんは記す。

そんな笹原さんでも、小さい子供を復元する日が十日間続いた時には、つらくて悲しくて声が出なくなり、ベッドから起き上がれなくなったという。そして、知り合いの住職に自分の思いのたけを打ち明け、その返事に泣きながら心の整理をつけて、再びボランティアに向かったのだという。

世の中には、地味だけどこんな凄い人がいるんだと、ただただ敬服する。

震災から1年半近く経って、自分はこの本でようやくその現実の一端を知る思いがした。震災の中心には2万人の死がある。膨大な数の、大切な人を失ったという経験がある。そのことに少しでも思いを致すことがなければ、「復興」や「絆」などの言葉を並べてみても、空疎に響くだけだろう。

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