タレブの『強さと脆さ』
『ブラック・スワン』の翻訳書が出たのは、もう一年半も前のことになるのか。タレブという人の書いた世界的ベストセラーに興味がないことはなかったけど、邦訳を見たら、上下2巻本という厚さで正直読む気が失せた。今回新しく出た『強さと脆さ』(ダイヤモンド社)は、原著ペーパーバック版に追加されたエッセイを独立させて単行本化したもので、『ブラック・スワン』入門という性格も帯びているらしい。ので、とりあえずこれを読むことにした。いいんです、サラリーマンは。何となく知ってるつもりになれれば。さて、『ブラック・スワン』は、基本的には哲学の本らしい。『強さと脆さ』から以下にメモ。
『ブラック・スワン』以前、認識論と意思決定論の大部分は、現実の世界に生きる身にとって、単なる不毛な頭の体操であり、前戯にすぎなかった。思想の歴史のほとんどは、私たちは何を知っているか、あるいは何を知っていると思うか、そればかりだった。
人間の思想につきまとう頭の痛い問題は、懐疑主義と、信じてだまされる道という両極端の、どのあたりに立ち位置を置くか、つまりどう信じてどう信じないかを決めなければならないことである。また、そういう信念にもとづいてどう意思決定するかも問題である。信念を持つだけで意思決定をしなければ無意味だからだ。だから、これは認識論の(つまり何が本当で何が間違いかを考える)問題ではない。むしろ、決め、行動し、続ける、そういう問題である。
黒い白鳥とは大きな影響を及ぼす認識の限界であり、心理(思い上がりやバイアス)と哲学(数学)の両面における、個人と集団両方の知識の限界である。「大きな影響を及ぼす」と言うのは、大事なのは衝撃の大きい稀な事象であり、私たちの知識は、経験的にも理論的にも、そうした事象に出くわすと、使い物にならなくなるからだ。大きな影響とはそういうことである。
・・・タレブは、「私が示した経験的知識や統計的知識に関する限界は(決定的ではないとしても)現実的に重要」であり、この限界を踏まえた手法で意思決定を分類することにより、たとえば「もっと安全な社会」をつくることができる、という。
タレブは、複雑な金融商品を禁止して経済的生活を脱金融化しないといけない、普通の人に必要なのは安全性だ、とも提言する。タレブの思索は、金融市場主導でグローバル化した世界における「超カント」的な試みであると、無理矢理言えるかもしれない。
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