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2008年12月27日 (土)

改革派経済学者の「懺悔」

最近、リチャード・クー、野口悠紀雄、中谷巌、紺谷典子など、90年代に活躍していたエコノミストの新刊が本屋で目に付く。なかでも中谷巌の『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)は、構造改革派の「懺悔の書」との惹句が帯にあるものだから、何だか只事じゃないなあ、と思って読んでみた。

なぜ「懺悔の書」か。若い頃アメリカで経済学を学び、自由主義や市場原理の信奉者となった著者は、バブル崩壊後の日本において、改革派経済学者として規制緩和などの旗を振ることになったのだが、小泉改革以後の格差拡大などの事態に直面して、「構造改革やグローバル資本主義は日本人を幸福にしたのか」という疑問が生まれた。そこにアメリカ発の金融危機が起き、世界が不況へと突入する中で、自らの「転向」について書き上げたのがこの本ということだ。

グローバル資本主義が社会を破壊する、との問題意識から出発するこの本の内容は、経済学的というよりは多く文明評論的である。それは基本的なスタンスが、「グローバル資本主義が暗黙の前提としていたアメリカ的な価値観や思想のどこに問題があったかを検討する」、もっと言えば「そもそもアメリカ流資本主義、さらに近代西洋思想のどこが誤っていて、どのように修正をしていくべきかを、根本に遡って考える」、というものだからだ。

階級意識の残る欧米においては、新自由主義的経済学も結局はエリートが大衆を支配するための道具であった。今や、世界的な格差拡大や環境破壊をもたらしているグローバル資本主義、その根本にあるアメリカ流の近代西洋的、キリスト教的価値観の是正は急務である。そこで日本の価値観の出番となる。日本的な平等観や自然との共生感覚こそが、これからの世界に求められる・・・著者の危機意識は充分に伝わってくるものの、西欧的価値観が行き詰まったところに、日本的価値観を対置する著者の批判に特に目新しいものがある訳ではない。経済学者である著者には、やはり経済学の枠内で、グローバル資本主義を内在的に克服する道を示してもらうことを期待したい。

かつて、「世界で一番成功した社会主義国」と冗談交じりに語られた日本。だが冷戦終結で社会主義の敗北が明らかになると共に、バブル崩壊後の日本も自らの社会主義的部分の修正を迫られ、自由市場主導型の経済改革を進めた訳だが、今度はその大本であるアメリカ流の新自由主義が大きく躓いたために、次の改革の方向性を見失ってしまったように見える。振り返れば90年代は、日本経済システムあるいは日本的経営の建て直しが活発に議論された時期だった。その90年代に活躍したエコノミストたちが今、自らの意見を開陳しているのは偶然ではないと感じる。いずれにせよ、再び日本経済の在り方について幅広く議論を呼び起こす時が訪れたのは間違いない。

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