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2008年11月30日 (日)

『アメリカの宗教右派』

アメリカの宗教右派』(飯山雅史・著、中公新書ラクレ)は、アメリカという「宗教国家」の政治史を分かりやすく描き出している。

初めにプロテスタントの大分裂ありき。20世紀初頭のアメリカでは、進化論など近代科学を受け入れる「近代主義者」と、聖書を字句通りに解釈する「原理主義者」の大論争が起きた。その結果、前者が「主流派」となる一方、後者は少数のラディカルな「原理主義派」と、よりマイルドな「福音派」に分かれた。その違いについて以下に引用。

福音派と原理主義派は、聖書を非常に重視する点で共通点を持つけれども、前千年王国説をとる原理主義派は、人間がいかに努力しても、キリストによる救済まで世界は救われないと考え、政治や社会から背を向けてきた集団である。これに対して、福音派はこうした悲観主義ではなく、社会と積極的に関わっていくことを選択した人たちだ。キリストの救済があるまでに、人間は努力して、社会を良くしていかなくてはならないし、その努力は報われるという積極主義と楽観主義がその根底にある。

・・・福音派や原理主義派は、文字通り宗教的な理念を実践する人々に与えられた呼び名であるのに対し、「宗教右派」は政治的集団を指すメディア用語で厳密な定義はない。それは、中絶や同性愛結婚の禁止などを主張して、共和党を支持する宗教系の団体に対する総称として使われる。1970年代以降、それまでの“リベラルの行き過ぎ”に対する反発の高まりを背景に保守主義が台頭。宗教右派運動はその流れと相互に影響しあいながら成長していく。この宗教右派に共鳴し、選挙の時には保守的な共和党候補に投票する一般市民が何千万人といる。その多くは福音派の人たちである。

保守主義の流れとともに育ってきた宗教右派運動は、2004年のブッシュ大統領再選で絶頂期を迎えた後、衰退の過程に入ったとの見方も出てきている。しかし福音派について言えば、依然として国民の4分の1を占める大きな有権者層であることに加えて、地球環境や貧困などリベラル的な問題に取り組もうとする変化の動きも見せており、今後もアメリカ政治に一定の影響を及ぼすだろう、というのが本書の見立てのようだ。

付け加えると、アメリカの有権者は、民主党、共和党の確信的な支持者が3分の1ずつで、残り3分の1は過激なリベラルも、過激な保守も敬遠する浮動票(黄金の中間地帯)と言われている、とのことであるから、この3極でバランスを取っているのがアメリカ政治の実態、と考えて良いのだろう。

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