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2007年5月19日 (土)

『新帝国主義論』

メインシステムである世界経済を、サブシステムである各国経済が支えるグローバル経済の現実は、一国経済分析を前提とする経済学では把握できないのではないか。そのような認識に立脚しつつ、現在の世界経済の繁栄は、アメリカを中心とした資金循環と、中国・インドの大量かつ安価な労働力の結合の賜物であると分析、いまや「地球帝国」と呼ぶことも可能なシステムが成立している、という仮説を提示するのが『新帝国主義論』(武者陵司・著)である。以下に要点をメモ。

まず「地球帝国」経済の繁栄を可能にした二つの基本特質について。

第一の基本特質とは、「地球帝国」の辺境、つまり中国やインドにおける生産性の飛躍的上昇、第二の特質とは先進国の多国籍企業で恒常的に発生している労働力の不等価交換に基づく膨大な超過利潤、チープレーバー・ギフト、経済学の用語では差額地代の存在である。

先進国の多国籍企業は、著しい労働コストの引き下げの恩恵に浴している。先進国と中国・インドなどの巨大新興国との間で10倍、20倍という著しい労働賃金の格差が存在し、その格差が差額地代・超過利潤となって先進国の多国籍企業の所得を支えている。そして多国籍企業で生成する巨額の超過利潤を起点とした所得分配、資本形成という再生産のメカニズムが世界経済の推進力になっている。

このメカニズムを担保する資金循環、それは「地球帝国」循環と呼ばれる。

「地球帝国」循環とは、アメリカ多国籍企業を媒介とするアメリカへの所得集中→アメリカの輸入増加→海外諸国での生産増・経常黒字増→アメリカへの資金還流→アメリカ多国籍企業の海外投資促進とアメリカ人の旺盛な消費→アメリカ輸入増、という循環である。「地球帝国」循環は、アメリカが「地球帝国」の中枢に位置して、集積した富を世界に還流・散布するメカニズムと言っていいだろう。「地球帝国」循環により、ドルは経済実態のある金融力と政治軍事ヘゲモニーに裏打ちされた完全なる本位通貨となった。

(完全なるドル本位制の下で)アメリカの債務拡大は、グローバルな成長通貨供給として機能し、特に中国・インドなどに存在する未活用の労働予備軍(超低賃金労働力)を稼動させることで著しい成長と生産性上昇をもたらした。

今後、「地球帝国」繁栄の持続力を左右するのは、やはり中国である。

最大のリスクは「地球帝国」繁栄の二つの論理的鍵である辺境(フロンティア)での生産性革命と、先進国における差額地代(超過利潤)が断たれることであろう。辺境喪失は、最終的には先進国と途上国(超低賃金労働力提供国)間の交易条件の劇的変化、中国の場合には何倍というような人民元の大幅な切り上げとなって現れるであろう。
中国は「地球帝国」最大のフロンティアであり、繁栄のエンジンである。中国がフロンティアであることをやめれば、世界経済は直ちに暗転する。

・・・地球上にフロンティアがある限り、資本主義の運動は続くことになる。著者は、「極めてダイナミックな運動体」である「地球帝国」分析ツールとしては、マルクス経済学やウェーバー社会学が有効であることを示唆するが、「存在するものはすべて合理的である」、「異なる矛盾体が止揚され、統一物に転化するという、弁証法的発展の中で流転する現実を把握する必要があるのではないか」、「『地球帝国』は、誰かの意思によって目論まれたものでも、アメリカの戦略によってもたらされたものでもない。神の論理の自己実現と考えるのが妥当である」、などの言葉を目にすると、思考の基本的枠組みはヘーゲルみたいな感じがする。ただし、その中心にあるのはヘーゲルにおける理性ではなく、「資本のあくなき増殖衝動」なのではあるが。

(書名について。グローバル秩序を「帝国」と呼ぶ流れを意識してると思うけど、いくら「新」を付けても帝国「主義」ではミスリードの恐れ。「地球帝国論」の方が良かった?)

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コメント

お久しぶりです。

武者氏は、ネグリ/ハートの「帝国」を意識しているのでは、もしかすると彼らに対抗するつもりなのでしょうか。

それと「神の論理の自己実現と考えるのが妥当である」の件は退いてしまうなあ。

投稿: 秘密組合員 | 2007年5月21日 (月) 17時05分

秘密組合員さま、いらっしゃいませ~。
あとがきにあるのですが、「帝国」云々は編集者の入れ知恵?みたいです。編集者は当然ネグリ/ハートを意識してたでしょうね。
「神の論理」も「おいおい」って感じしますが、「グローバリズムはアメリカの陰謀」よりはまだカワイイかもね。

投稿: donald | 2007年5月21日 (月) 22時32分

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